クラッチの修理

 

 

 2007年の初ツーリングで伊豆にでかけたときのこと、バイクのクラッチがすべっていることに気がついた。小田原・厚木道路を80キロで走行中、スピード・アップしようとしてアクセルをあけると、クラッチがすべり、エンジン回転だけが、グワァーン、とあがり、しばらくしてからクラッチがつながって加速をはじめるという症状がでたのだ。注意してみると3500回転くらいで巡航中にアクセルを大きくあけると、4000回転の上までクラッチがすべってからつながるという症状をくりかえす。翌々週にまた伊豆にでかけて峠道をはしると、おなじ症状がでたので、これは修理をしなければならないと思ったのだった。

 ところで私のバイクは1990年型である。年式も古くなってきており、昨年はミッションのギヤが欠けて、となりのギヤに噛みこむというトラブルが発生し、ミッションのギヤの交換といっしょに、キャブとエンジンのヘッドまわりのオーバー・ホールを実施した。そのおかげてエンジンは見違えるように力強くなり、調子もよくなって、昨年の北海道ツーリングも走りきることができた。そして昨年末には車検も取得したのだった。

 いま思いおこせば、北海道を走っているときからクラッチがすべっていたような、感覚があった。そしてバイクが古くなってきていることもあり、つぎに何かトラブルが起こったら、乗り換えようとも考えていた。そんな折にこの症状である。修理するのか、乗り換えるのか、考え込んでしまった。

 クラッチのすべりはクラッチ・プレートを交換すれば直るだろうとの、メカニックの見立てであった。費用は3万円ほどとのこと。チェーンとスプロケットの交換時期にもなっているので、これらもいっしょにやると5万円ほどの費用である。この5万円というのが半端な金額なのだ。もっとかかるようであれば乗り換えに気持ちはかたまるのに、5万円で直るのであれば、修理をして、OHをしたばかりのエンジンと取ったばかりの車検を生かそうかとも考える。一方でまたすぐにどこか壊れるのではないかとも思われるので、修理するのか、買い換えるのか、決断がつかないのだった。

 気持ちが定まらないので、自分の真意をたしかめるために新車を見にいってみることにした。買い換えるとすればDR650が第一候補であるが、他にカワサキのW650というオンロード・バイクと、オフのホンダXR250、スズキ・ジェベル250というモデルが気になっていた。バイクを2台持てるのであれば、オンのW650とオフのXRかジェベルという組み合わせがベストだと思う。ほんとうのことを言えば、DR650とW650の2台を所有したいが、2台とも車検つきでは維持費がかかってしまうので、オフは250が現実的なのだ。ただ乗り換えるとしても一度に2台は購入できないから、いずれかを先行して入手し、しかる後にもう1台を追加取得する、ということになるのであり、その場合は、オフ走行好きの私としては、オフの250からということになりそうだった。一方で1台しか持てないのであれば、これはオンオフ使えるDR650しかなかった。

 

 W650 カワサキのHPより

 

 W650はデビューしたときから気になるモデルだった。じっさいに見てみると、やはりスタイルがノスタルジックでよい。私はZUやF、刀の世代でW1世代ではないのだが、落ち着いたデザインに好感を持った。そしてシングルや4気筒には乗ったことがあるのだが、2気筒車を手に入れたことはないので興味があるのだった。一方で新車のW650に乗っていると、なんだか帰ってきた中年ライダーのようで、軽さを感じてしまううらみがある。何も語らなくとも、バイクを見れば乗り手の好みがわかる、DR650のような強い主張と存在感がないのが、不満だった。

XR250 ホンダのHPより

 

 XR250は走破性とデザインが気に入っていた。カラーは赤が人気だが、私は渋い黒にしたいと思っていた。しかしまたがってみるといかにも線が細い。250のオフロード・バイクはこんなものかもしれないが、DR650の20gタンクを見慣れている者としては、おもちゃのように感じられてしまった。

  

 ジェベル250 スズキのHPより

 

 ジェベル250は17gの大型タンクとキャリア、大型のヘッドランプが装備されていて、『旅仕様』というキャッチ・コピーがついている。ツーリングでの使い勝手はこれがいちばんで価格も安い。私の使い方にあっているのはこれだろうと思われた。渋いカラーリングも好みである。

 さてDR650である。このバイクはめったにない。在庫もほとんどないのである。本来なら、いつもRSの修理をしてくれるショップで商談するのがいちばんなのだが、残念ながらな置いていない。首都圏のバイク店を検索してみると、近くの練馬のチェーン店に在庫があるとのこと。行ってみるとオーダーを受けてから発注をかけるシステムで、現車はおいてなかったが、商談をすると乗り出しで77万円ほど、そして下取りはゼロとのことだった。車検を昨年末に取ったばかりだと強調したが、1990年型の我がDRは、査定ゼロであった。古いから仕方がないかとも思うが、じっさいに店頭にならべば、車検たっぷり19万円、とかになるのではなかろうか。なんだか自分のバイクの価値がゼロといわれて納得できずに店をでた。

 つづいて埼玉県所沢市のスズキ専門店に在庫があり、価格応談とのことででかけてみた。しかしタッチの差で売れてしまったところで、グループの在庫もすでに完売とのこと。参考までに価格をたずねてみると、やはり乗り出しで78万円とのことであった。下取り値はきかなかった。Vストームなら在庫はあるがとすすめられたが、DRでなければと断った。

 さらに茨城県龍ヶ崎市のウエストウッド井原商会に在庫が2台あり、しかも価格が安いので、遠いがRSに乗ってみて気持ちを確認することも必要であり、見にいってみた。ここはキャンペーン中ということで乗り出しが69万円と非常にお得で、下取りについても、バイクに乗ってきてますか? それなら見てみましょう、とハートがこもった対応をしてくれた。そしてRSを見ると、
「うわぁ、きれいなバイクですね、とても1990年型には見えませんよ。しかし、今のと形がまったくちがってますね」と言いつつバイクをチェックし、
「ところでクラッチがすべってたりしませんよね」とするどいことを質問する。
「ええ」とおもわず答えてしまうと、
「それならば下取り5万円でどうでしょう」ときた。これは破格の条件でグラッときた。69−5=64万円。そして横においてあったジェベルは乗り出し45万だった。よくよく考えることにして店をでたが、ウエストウッド商会は気持ちのよいバイク・ショップだった。ハーレーなどの外車もあつかっているが、店員がバイクが好きなのがつたわってくる。商売気よりも、バイク好きのほうがすこし濃くなっていて、それがカラーとなってバイク乗りが集い、商売の輪がひろがっている印象。なかなかない店だった。

 DRの新車を見るためにRSで所沢に行ったり、ミニ・ツーリングにでたり、龍ヶ崎まで走ってみると気持ちはかたまったいった。井原商会をでたときには直して乗ろうとほぼ決めたのである。

 RSとは長いつきあいで愛着があるし、不具合をかかえたまま手放すのは、RSの行く末を考えると不安だったのである。クラッチがたまにすべるとはいっても、通常の走行には支障はない。OHしたばかりのエンジンは好調である。しかしつぎにRSを買った人は、クラッチが段々と悪くなっていったら、修理をして乗り続けるのかわからない。もしかしたらそのままくず鉄になってしまうかもしれないではないか。安く買った古いバイクは大事にされないのが常だから。昨年ミッションの修理のときにも感じたのだが、私が手を入れて乗り続けないと、RSの寿命がそこで尽きてしまうと思うのだ。つぎにRSを買うことになる人がどんなバイク乗りかわからないが、私ほどRSのことを知っていて(この1台のRSという意味です。すべてのRSというわけではありません。)、大事に感じている人間は他にいないではないか。どうしても手放すのなら、クラッチやほかの気になるところも直して、すぐには壊れないようにしてからにするのが、せめてものRSにしてやれることだと思うのだ。そして修理をするのならば買い換える必要もないではないか。

 いつものバイク・ショップにでかけてクラッチ・プレートとチェーン、前後スプロケットの交換、そしてタコ・メーターのランプ切れの修理を依頼した。メーターは昨年の北海道ツーリング中に立ちゴケして損傷し、それからバック・ライトがつかなくなっていたものだ。部品はすぐに入荷したが、メカニックから割れていたメーター・ケースの交換と、前後のホイール・ベアリングなどの交換もすすめられた。メーター・ケースは単価1400円と安いし、ベアリングには水がはいってしまっているとのこと。年式を考えれば交換したほうがよいのはあきらかだ。そのほかにも細々とした部品を交換し、73668円の費用で修理は終了した。

 

 交換した部品 ベアリングにスプロケット、チェーン、リヤのアスクル・シャフト、ビニールの中にクラッチ・プレートなど

 

 乗ってみるとクラッチが格段に軽くなった。それが顕著なちがいである。そしていままで感じなかった、クラッチのプレートとスプリングの作動感を振動のなかにたしかに実感する。カチカチというギヤとスプリングの回転する感覚である。いままでは磨耗してしまっていて、作動を感じないほどになっていたものと思われる。調子はすばらしくよい。もともとエンジンは好調なのだ。不具合を直すのが億劫でも、新車がよくても、修理をしていけばバイクは乗り続けられるものだと、あらためて感じるが、よく見ると、フォーク・ブーツが破れているではないか。プラスチック製のフォーク・ブーツは年月の経過で劣化し、定期的な交換が必要なのだ。いま修理が終わったばかりなのに、げっそりしてしまった。

 とりあえず、しばらくこのままにしておこう。