八溝山林道ツーリング

 

 八溝真名畑林道

 

 去年走ろうとして果たせなかった、八溝山周辺の林道探訪にでかけた。昨年は林道の入口がどうしてもわからず、それらしきところは通行止めとも書いてあり、次の機会を待つことにしたのだが、ようやく再挑戦することができたのである。前回は八溝山の山頂側から入ろうとしてわからなかったので、今年は逆方向から行ってみることにした。

 ゴールデンウィークに袋田の滝や竜神峡に行ったばかりで、同じ道を大子まで走る。その途中に『御前岩』という奇岩があり、TMには男なら見にいくべし!、とコメントされている。どんなものなのか行かなくとも想像できるが、話のタネにでかけてみると、男の子なのかと思ったら女の子だった。しかしわざわざ見に行くようなものではない。

 

 御前岩 

 

 大子で給油をして国道118号線を北上していく。矢祭にはいるとここは福島県で、茨城県だとばかり思っていたので勘違いをしていた。地図をよくよく見たら、これから走る林道もすべて福島の道だし、奥久慈は福島県であることもはじめて知った。

 矢祭で昼時となった。横を久慈川がながれているから鮎か蕎麦が食べたい。去年鮎を食べた食堂があるはずだと思っていると、雨が落ちてきた。空をみると頭上にだけ雲があり、ほかは晴れているから、天気雨ですぐにあがると思われる。しかし去年はいった食堂が見えてくると、雨足は強まったので、この店に縁を感じて入店することにした。

 去年は客は私だけで、後から観光客の夫婦が来たのだが、今回は姉妹だという地元の老女と、大型トレーラーとトラック・ドライバーがふたりいた。ここは観光客よりも地元の人むけに商売をしている店だ。おばあちゃんや女将、トラックのお父さんが地元言葉でやりとりしているなかに入っていくが、私はあきらかに異質な存在だった。

 昨年は店頭の炭火焼コーナーで鮎を焼いていたのだが、今日はやっていない。どうしてなのかと思ったが、ここはラーメンや肉野菜定食、焼き魚定食という観光地らしからぬメニューばかりで、唯一鮎定食1300円があるのみなのでそれを注文すると、女将は冷凍の鮎を取り出したからガックリきた。考えてみれば鮎の解禁前だからしかたがないが、それでも観光客相手の店は養殖の生きた鮎を使っているはずなので、ここに入ったのは失敗だった。

 それでも雨は本降りとなったので、ここに入ってよかったかと思っていると、トラック・ドライバーのお父さんが話しかけてきた。どこにいくの?、と。八溝山の林道を走りにいく、と言うと、わざわざジャリ道を走りにいくということが理解できないようだ。生産的でないこと、それもよりにもよって、地元の年配のお父さんも行ったことのない、山のなかのジャリ道を走るために、650tの大きなオートバイで、時間と金をかけて来た価値観がわからないらしい。ふだん都会で、多様な人間と、様々な価値観のなかで暮らしていると、こんな反応がかえってくることのほうが信じられないが、実質本位の価値観しかない人は、まだいるのである。

 ジャリ道を走りに来たんだってよ、とお父さんが女将やおばあちゃんふたりに言っている。この反応には困った。それでもお父さんに悪意は感じられず、ただ理解できないのだと感じられたが、悪意は思いもよらないところに隠れていた。みんなが食べているのは600円くらいのラーメンや定食だが、私が注文したのは最高額の定食で、ついでにみやげのこんにゃく730円も買ったから、チャラチャラしているように見えたのだろうか。

 

  鮎定食

 

 冷凍なのに思ったよりも早く鮎が焼けてきた。女将さん冷凍物をあつかいなれているようで、尻尾は焦げてなくなってしまっているが、短時間でうまく火をとおしてある。そして鮎はともかく、こんにゃくが美味しいのである。これは福島県塙町の『小貫商店』という会社の製品で、今回みやげにも買ってきたのだが、このこんにゃくの記憶が残っていたからこの店に入ったといってもよいくらいなのだ。刺身こんにゃくは生姜正油で、ネギをそえて食べると絶品であった。食事をしていると、トラック・ドライバーのお父さんは私に会釈をしてでていった。

 食事を終えてまだ雨の残る国道にもどると、おばあちゃんふたりも店からでてきた。そして、旦那さん、お相手はいないの? と言う。ソロ・ツーリングのことを言っているのか、ひとり者だと思っているのか意味がわからない。ひとりで遊ぶのが気楽で大好きなのだが、それがわからないのか、それともこんなことをしているから独身だと思ったのか。よくわからないから、家族は家においてきたんですよ、いつも女房といっしょじゃ疲れるでしょ、と言っておいた。しかししばらくして意味がわかった。時間と金の無駄で、意味のないことをしていると感じ、私を揶揄したのだ。そんなことの相手をする人はいないでしょう、と。都会の人はたがいに距離感をとっていて、いきなりこんな失礼なことは言わないが、田舎の人は感情表現がむきだしだ。しかし自分が理解できないことを頭から否定して、話したこともない人間にこんなことを言うなんて、意地が悪くて、視野が狭く、頭も悪くて、話にもならないね。

 

 八溝真名畑林道 

 

 店から走りだすと雨はすぐにあがり、路面も濡れていなかったから、局地的な雨だったようだ。よほどあの店とあの人たちと因縁があったのかもしれないと思うが、そんなことは捨て置いて、県道196号線から八溝真名畑林道に入っていく。右折点は折戸というところで、佐ヶ草まで舗装されていて、その先からダートとなる。はじめは林のなかをいく道で少しぬかるんでいる。その先は上の写真のように走りやすいおだやかなジャリ道だ。沢沿いをはなれると坂は急になり、少々ガレてくる。急坂をぬけるとまたおだやかになり、山頂部にかかる。そこで岩ツツジが咲いていたので写真をとった。

 

 岩ツツジと

 

 林道は八溝山の山頂の北、3キロの地点をとおって県道321号線に合流して、14.2キロの行程を終える。坂が急なところとガレもあるが、おおむね走りやすい林道だった。

 県道を3キロほど下っていき、ロータリーのある分岐から旧久慈山林道にはいった。

 

 旧久慈山林道

 

 旧久慈山林道は林のなかをいく走りやすい林道である。この道で棚倉まで行ってもいいのだが、中間付近で大森林道が北の県道60号線につながっていて、ゆるやかな峠越え林道、6.5キロ、とTMにコメントされているので、ここに入った。

 

 大森林道 

 

 大森林道も走りやすいダートで、北海道のジャリダートのような道だ。ここまで林道をはしごしてくると、もうノリノリでダートを走る。気持ちいい! 面白い! 爽快! やはりジャリ道をわざわざ走りに来る人間は、変人なのだろうか。

 

 天狗党の墓

 

 大森林道をぬけて県道を棚倉町にくだっていくと、途中に『天狗党の墓』という看板があったので立ち寄ってみた。天狗党は水戸藩士の尊王攘夷派のことで、外国勢力排除の勅令をだした朝廷の命令に従わない幕府に対して、反乱をおこした勢力である。最終的には幕府に敗れて、命を落としたのだが、畑のなかの墓を見にいくと、ここは棚倉藩によって斬首された天狗党員の墓とのこと。天狗平と呼ばれたそうだが、いまはすぐ横に民家がせまり、その家のものらしいお墓もならんでいて、悲壮なムードはなかった。

 

 馬場都都古別神社

 

 棚倉ではたずねてみたいところがあった。以前横を通って陸奥の国の一宮がごく近くに、ふたつあるのを見て不思議に思っていたのだ。棚倉の町にはいると『馬場都都古別神社』(ばばつつこわけじんじゃ)がある。警察の寮の横にひっそりとたっていて、入口にはまちがいなく、『陸奥国一宮』と看板がかかっている。しかし神社に神主さんなどはひとりもいなくて、神社を見ているのは千葉ナンバーの家族連れと私だけ。一の宮とは思えない小ささに驚きながら、つぎの一の宮にむかった。

 

 八槻都都古別神社

 

 馬場都都古別神社から国道118号線で南下すると、5キロほどで『八槻都都古別神社』(やつきつつこわけじんじゃ)がある。こちらのほうが規模が大きく、神社の人も常駐していて、『奥州一宮』の看板がかけてあった。ここを見学するのも私と千葉に人だけであったが、陸奥国一の宮と、奥州一の宮はどうちがうのか、同じではないのかと思ってTMを見ると、両方とも奥州の一の宮と書いてあった。どうにもよくわからないまま帰宅したが、一の宮はひとつとはかぎらないようで、いくつもある例があるそうだ。このすぐ北の石川町には『石都都古和気神社』(いわつつこわけじんじゃ)があってここも一の宮と書いてあるし、塩釜神社も奥州一の宮とよばれているから、混乱する。しかし『都都古別』の旧記名が『都都古和気』だそうだから、都都古三社の歴史のほうが古いものと想像された。なお、みっつの都都古別神社を区別するために地名が頭についているようだ。

 

 板庭入宝坂林

 

 神社に興味のない方は前段を飛ばしていただいたものと思う。塙町から県道27号線にはいって板庭入宝坂林道にはいる。この林道も走りやすい11.2キロのダートだ。手入れが行き届いていて、砂利を最近入れたようだった。

 

 林道の眺望地点

 

 途中には眺望のひろがるところがあり、眼下に久慈川の流れと水田、そして対面する山々が見わたせた。また野生の藤の花が咲いていた。

 

 金沢入宝坂林道

 

 板庭入宝坂林道を走りぬけて、国道118号線にもどろうと思うが、ただ県道をいくのは面白くない。昨年も走った、短いが廃道寸前のような金沢入宝坂林道を通っていくことにする。記憶にしたがって林道の入口を見つけて入っていくと、雑草が生い茂り、ほとんど利用されていないようだ。道も一部くずれているが、バイクで走るのは問題がない。ずっと下りの林道を3.2キロ走行して舗装道路にでて、R118にもどった。

 矢祭町にもどってきた。時刻は17時になったので自宅にむかおうと思う。しかしこのまま朝きた道を大子、喜連川と帰っていくのは面白くない。どうせ西に向かうなら、もう一度八溝真名畑林道をはしり、八溝山を越えて、黒羽、大田原、西那須野と走破して、国道4号線にもどるほうが林道を堪能できるではないか。夕暮れの時間が気になったが、そのルートをとることにした。

 

 霧の八溝真名畑林道 八溝山山頂付近

 

 本日2回目の八溝真名畑林道にはいったのは17時15分だった。平地は明るいが林のなかはもう薄暗い。沢沿いの深い森のなかは路面がよく見えず、走りづらかった。それでも沢から離れて急坂をのぼるようになると、頭上に木はなくなって明るくなる。その道を1回目よりも一段と速い速度でのぼっていくと、ピークの直前くらいから霧がわきだした。それでも暗くはならないから、余裕をもって走り、17時45分に林道を出ると、雨が落ちてきた。

 ボツボツと落ちてくる雨からのがれようと山をくだっていく。雨は降ったりやんだりをくりかえす。八溝山の麓にある雲巌寺をすぎて、黒羽、大田原とすすむと、鮎の開き5枚で1000円、と宣伝している川魚屋がある。よほど買って帰ろうかと思ったが、断続的に雨の降るなかバイクをとめるのが億劫でやめてしまい、あとで後悔した。

 西那須野で国道4号線にはいり、南下していくと雨は強まり、ついにカッパを着ることになった。ところで夕食をとるのは小山にある『徳次郎食堂』と決めていた。大盛りで有名な店らしく、以前から大食い系ライダーのHPで見ていていってみたかったのである。じつはゴールデン・ウィークに家内とドライブに来たときに、いってみようと誘ったら拒否されていた。安くて大盛りなんて嫌だ、と。ならばひとりのときにいくしかないではないか。新4号線をのぼっていくと、ラーメン山岡屋の少し宇都宮よりに店はあった。

 

 小山 徳次郎食堂のおまかせ定食

 

 さっそく店に入って、おまかせ定食800円を注文する。料理はすぐにでてきたが、ご飯がてんこ盛りだ。おかずは豚肉のしょうが焼きと塩鯖、ふろふき大根で、食べてみると、味はふつう。おまかせ定食の料理は毎日変わるようで、それがわかっている常連は、今日のおまかせは何?、と聞いてから注文をしている。そしておまかせは作り置きしているから早くでてくるようだが、魚や大根は熱々ではない。とにかくお腹はいっぱいになるが、これではもう来ないかな。最近値上げしたばかりのようでもあった。

 たいへんな満腹となって帰宅の途についた。あまり満腹だとバイクは走りづらい。本日の林道走行52.2キロ。

 

 

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