アビシニオン  古川日出男  幻冬社  2000年  1400プラス税

 またしても古川日出男である。13、沈黙につづく第三作。これまた図書館の棚にあったのだが、本についている整理カードを見ると、以前から所蔵されていて、これまで近所の誰かが借りていたので、私の目に触れなかったのである。世の中に読書人は無数にいるものだ。しかも身近に。
 前作の沈黙にでてくるエピソードの発展か、前作の副産物なのか、それとも前作のためのイメージとしての試作品なのか、と考えつつ読みすすんだ。 しかし、沈黙にすこしだけ登場する人物の物語だった。
 文字を捨てた少女の話である。少女とネコの生活からはじまり、少女と知りあった青年との物語を青年の視点で語り、少女の過去にもどって現在の境遇にいたるストーリーで少女の保護者、姉となる人物との邂逅にいたる。姉の視点で少女のその後が語られ、最後に少女の視点でつづられて終わる。
 はじめは短編集だと思ったのだが、連続した一編の小説だった。随所に詩的な文章の空間処理があり、作者の美意識がつたわってくる。幻視をともなう偏頭痛の発作や、匂い、料理、音楽などのエピソードが効果的に織り込まれている。
 13、沈黙にくらべると文学的、つまり否定的、不健康で、病的。反社会的だが、感性と才能はすばらしい。







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