赤い脣 黒い髪 河野多恵子 新潮社 1997年 1957円+税

 ベテランの上手さを随所に見せつける短編集。

 7つの短編がおさめられている。どの作品のどこを見ても神経がいきとどき、様々な技法が凝らされている。特に眼のつくのは説明の仕方で、小説の前段に説明の段をもうけて本題にはいるというのはほかにないスタイルで、ふつうは成功しそうもない手法だが、大ベテランは特有の語り口で自然に読者を誘うのだ。

 ひとつずつ作品を読みすすめていくと、独特の感性と着眼点におどろかされる。それが作者のパーソナリティーなのだろう。また、ふとした着想でいくらでも小説のアイデアが生まれるのではないかという印象をうけるから、作者の豊かな想像力におどろかされた。

 もっと他の作品も読んでみたいと思わせる1冊である。

 

 

 

 

 

 

 

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