穴掘り公爵  ミック・ジャクソン  新潮社クレストブック  1998年  2200円

 19世紀イギリスの老公爵を主人公に、公爵の日記と、使用人の証言で構成された特色的、意欲的構造の小説。よく書き込まれており、周到な伏線が引かれている。長い時間をかけ、丁寧に、渾身の力で書かれた力作。
 はじめはほのぼのとしている。やがて危険なにおいがしてきて、文学的な展開となる。精神について、がこの本の主題であり、深い考察が散見されるが、主人公が精神的な失調におちいると、内容は拒絶するよりほかにないものになってしまう。物語は破滅的な結末にいたる。
 時代考証などは緻密に積み上げてあり、ブッカー賞(どういう賞なのかは分からない)の最終候補になったという力作だが、結末が受賞をのがした理由だと思われる。文学的といえばあまりに文学的なラストだが、私は好まない。健全でないし、物語として安易で弱い。翻訳はすばらしい。

 

 

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