アンネの日記・完全版  アンネ・フランク  文芸春秋  1994年  1553プラス税   

 アンネの日記を手にするのは三度目である。一冊目は子供向きのダイジェスト版、二冊目は文庫本であり、これが三冊目である。
 アンネの日記を読むことは、辛い結末を知っているだけにエネルギーが必要だ。手元に読みたい本があふれている現代、人種差別や悲惨な戦争とむかいあう心境になるにはタイミングも必要で、1994年に発売と同時に買った本をそのまま死蔵し、2001年に手に取ったのは、そんな理由からだった。
 日記は13歳のときからはじまり、隠れ家に移ってからが核心になる。はじめはまだ子供ということもあって、書いてあることは幼い。これは読む人の年齢にもよるだろう。同じくらいの年であれば共感できると思う。
 アンネが精神的に発達し、周囲の大人と衝突しながら、成長していく過程がこの日記の最大の価値だ。隠れ家に何年も息をひそめて暮らす日々、人々は何を楽しみを見出すのだろうか。アンネたちは読書し、語学、歴史、科学、数学などじつに多様な学習もしているが、人間関係が限られたなかでは、子供は自分自身と向かい合うほかないのではなかろうか。またこの年代はそうしていく時期である。自信と後悔がないまぜとなって存在する不安定な季節だ。
 そこにいるアンネが、厳しい時代のなかで、希望をもって、将来を夢見て、自分を変えていきたいと、真摯に願っている。将来はものを書く人間となって、人のためになるものを書きたいと考えている。
 アンネの夢は叶えられなかった。その後はだれもが知っているとおりである。
 よく引用される一節。
 
 それでも私に、いくらかりっぱなものが将来かけるでしょうか、歴史にのこるようなものが、私みたいなものが書いたものがみんなによまれるようになるでしょうか。

 完全版では、りっぱなもの、と訳されているが、単行本では、偉大なもの、と訳されている。
 アンネは歴史にのこり、人々に読みつがれていく『偉大なもの』を書いたのである。

 

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