暗泉空談  中村眞一郎  集英社  1994年  1800円

 中村眞一郎の小説は読まないが、評論やエッセイは好きである。該博で、膨大な知識と芸術性のたかい内容。華やかな履歴も魅力である。しかしこれが小説となると、抑制のきかない、饒舌すぎる語り口で、物語を読ませる集中力を著しく減退させてしまう。読点でつないで、句点なしに延々とつづく文体も、エッセイなら味になるが、小説では独りよがりだ。
 本書は日経新聞の日曜・文化蘭に連載されていた。毎週楽しみの読んでいたが、本になったので再読したもの。一高、東大とすすんだ若いころの話から、少青年時代に夢にあらわれる中国の美青年に唇をうばわれる話、昔同棲した女性と夢のなかで再会し、ふたりにはいなかった子供に囲まれる幻など。
 先年に亡くなられ、もう新刊に触れることができず、残念である。











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