晩年様式集 イン・レイト・スタイル 大江 健三郎 講談社 2013年 1800円+税

 作者と思しき老年の作家が主人公で、作者の作品にいつもでてくる作者の妻と障害のある息子、娘、四国の作者の実家に住む妹などが登場する、私小説風の作品。饒舌体で説明過多の文体なのもいつものスタイルだ。

 テーマは反戦と反原発、そして将来のたいする希望である。

 作者が主人公で、その家族とのかかわりを語るというのはいつものスタイルだが、今回は構成が凝っている。いつも小説に書かれている妻と娘、妹がその内容が不満だということで、主人公をいれて4人で回覧ノートをまわし、それぞれが自分の考えを書きつけていく体裁となっているのだ。ほかにインタビューに答えるという手法もとられているが、作者ばかりが語るのでは単調になるからそうしたのだと思うが、これは成功したと感じられた。

 作品は東京と作者の生家のある四国の谷間で進展する。これもいつものスタイル。アカデミックな内容だが、これまで関わってきた人への反発や、失敗したことの言い訳が織り込まれているのは、ご愛嬌だろう。

 しかし毎度目につく欠点はのこる。作者自身が作品中にふれているが、小説にリアリティーをもたせるために、えげつない性的なエピソードを盛り込むのだ。たしかに現実感のない作風だが、それが魅力でもある。下品なことでリアリティーを補おうとするのは毎回いらないと思う点である。

 作者は反原発の立場だ。しかし私は原発再稼動賛成派の人間だ。経済至上主義からそう考えているのだが、作者の理想主義的な視点は、小説を書いて生活してきた知識人の、おめでたさを毎度感じ、鼻白むところだ。しかしそれでも大江作品を毎度読んでしまうのだが。

 作品は最後に10年前に作者がかいた詩で締めくくられる。それまで厳しい内容が続くが、最後は希望をのこしておわるので、読後感はよい。

 作者は近年レイト・スタイル、晩年の創作活動、ということを盛んに言っている。しかし新しいスタイルは確立できていないのではないか。それでも読む価値のある作家だが。

  

 

 

 

 

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