地上生活者 〈第4部〉 痛苦の感銘 李恢成 講談社 2011年 3000円+税

 在日の作家が過去を振り返る力作大長編の第4部。作家編である。

 大学をでた主人公は北朝鮮系の組織に所属することになった。しかしその活動に疑問を禁じえなくなり、組織をはなれた。やがて作家として認められ、北朝鮮に肩入れしつつも、南北朝鮮の統一を願って活動していくのである。

 綴られていくのは南北の対立と仲間内での争いで、救いようがない内容だ。南北のイデオロギー対決も重苦しいが、仲間内での権力闘争と主導権あらそいは誠に愚かしい。そしてそれは日本人にはない執拗さなので、隣国の国民性を知ることになった。

 南北で争っているから、裏切りが日常化し、どちらにほんとうについているのか疑心暗鬼におちいる。そして疑われたら、拉致監禁されて拷問にかけられるのだ。水拷問、電気拷問、逆さ吊り、不眠の強要。果てには殺人。それは大昔のことではない。ほんの何十年か前の隣国のことなのだ。

 物語は歴史を背景にしてすすんでいく。金大中氏の拉致事件や朴大統領の暗殺事件。韓国の学生運動など。

 断片的に知っていることが、在日の主人公の目を通して語られるからとてもよくわかる。日本人には切実な問題ではないから、これまで無関心であったが、やはり分断されている国家は悲劇である。

 南北朝鮮の歴史を書く、という野心的な力作大長編。作品の水準も高い。現在も執筆中なのだろうが、次作を早く読みたい。巻がすすむごとによくなっていく。作者は高齢だが冴えわたっている。

 

 

 

  

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