断崖の年  日野啓三  中央公論社  1992年

 腎臓の悪性腫瘍を摘出した作者が、手術前後を体験記、短編小説、エッセイの形でつづったもの。とくに手術直後の麻酔薬と痛み止めのモルヒネからくる幻覚の描写が印象的。
 この作者らしく、観念的にすぎる恨みはあるが丁寧に書かれた好著。
 この後に発表された『台風の眼』や『光』の萌芽がみえる。また、健康であることを感謝する気にさせる書。病後に飛行機から見える雲海の描写があるが、色彩に関する考察はすばらしい。

 

 

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