どん底 ゴーリキイ 岩波書店 1979年版 第44刷 200円

 100年前のロシア下層民の生活をえがいた悲惨な戯曲、古典名作である。

 貧しい男女とその家主がくりひろげるどん底の日常が展開する。貧困と病,暴力と死。眼をそむけたくなるような現実がつづいていく。救いになるのは酒である。

 じつに多彩な人物が登場するが、人物が多すぎて誰がだれやらわからなくなるし、性格の区別もつきづらくて、焦点がしぼりきれず、文学的にはもっと人物を絞り込んだほうが物語の純度が高まると思うが、演劇的にはこのくらい人物がいたほうが効果的なのだろうか。演劇は門外漢だし、この舞台は見たことはないのでそれに関しては何も言えない。

 古い作品なのでときに大時代的だが、貧困の悲惨さは現代にも通じるものがあるだろう。作者も幼少時代から苦しく厳しい生活を乗り越えてきたそうなので、作者の実体験がかさねられていて、リアリティーがある。

 ただし作品構成には意図は感じられず、ただ筆のままに書かれたように思われ、混乱している印象をうける。各部の完成度にもばらつきがあり、全体的な統一感に欠ける。熟成が不足している印象で、もう少し時間をかけるか、書き直すかすれば、よりよいものになったと感ぜられるが、私ごときがこんなことを書くのは誠に不遜だろう。それとも訳が悪いのだろうか。

 きびしい現実を直視した作品なので、読むのは辛い。できれば触れたくない内容だと思うが、日本でも人気があって、昔から何度も上演されているそうだ。ただ、現代にはあわないと思う。あえて悲惨なものを見聞きするのは流行らないだろうから。

 名作に触れたい人が読むべき本。

 

 

 

                       文学の旅・トップ