フェルメール 光の大国 福岡伸一 本楽舎 2011年 2200円+税

 生物学者である筆者が世界中のフェルメールの作品をたずねる芸術・学術紀行。

 フェルメールの故郷のオランダからストーリーははじまる。フェルメールの作品について語ることが本書の目的だが、筆者は生物学者であるので、フェルメールと同時代、同地域に生きた顕微鏡のパイオニアについても言及し、これが線引きとなっている。またオランダの哲学者のスピノザについての記述もあり、アカデミックな傾きのある作品だ。

 フェルメール作品に特徴的な『光のつぶだち』について作者はかたってゆく。オランダからフェルメールを求める旅ははじまり、アメリカ、パリ、イギリス、ドイツとすすんでゆく。

 フェルメールの所蔵されている各地の美術館で、その作品を鑑賞するというのが作者の旅の趣旨だ。そしてこの作品は、航空会社のANAの機内誌のために書かれたものである。国際便の航空会社の機内誌の内容として、これほどふさわしいものはないだろう。そしてこのアイデアは作者の力量で見事な成功をおさめているのだ。

 この作品を読んでいると、フェルメールの絵をみるために旅に出かけたくなる。正にそれこそが本書の書かれた目的なのかもしれないが、フェルメールをこれほど愛し、深く追求している作者にたいしては、それは失礼な感想になるだろう。

 

 

 

 

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