夫婦でPキャンのはじまり
セレナの前は4ドアセダンに乗っていた。その車を買ったときには釣りを趣味としていなかったので、セダンで十分だと考えたのだ。後年渓流釣りにはまった私は、そのセダンで車中泊をしながら山奥を放浪したが、次に買う車はもっと大きなものにしようと思っていた。
そのセダンを買い換えることになって、ミニバンにしたのは自然な流れだった。セダンでの車中泊はせまい。眠るだけなら不足はないが、一日中川のなかを歩きまわるので、着替えたり、食事をしたりするためには広いほうが便利である。それに山の中で車中泊をする釣り人はけっこういて、彼らはほとんどミニバンなのだった。
セレナを選んだ私は実際にそのようにつかって満足していた。ひとりで。
2002年、NHKの大河ドラマは加賀百万石の祖、前田利家の「利家とまつ」で、金沢がブームとなった。大河ドラマを見ていた妻が、
「金沢には行きたいけど、予算がないよね」とつぶやいた。「ホテルに泊まったら、何十万もかかるものね」
「そんなことないよ」と私。「金なんてかけなくたって、金沢にいける」
「どうやって?」と気のない声。
「セレナに泊まれば、ただじゃない」
「ええ! なに言ってるの」
そこには、そんなことできるの、考えられない、だいいちカッコ悪いし、はしたない、なんてニュアンスがあった。
「行きたいの?」
「それは、行きたいけど」
「だったらーー」
行きたいなら行こうと、格安の予算を提示する私。その額を見て絶句する妻。
半信半疑だった妻もその予算で行けるならと乗り気になった。ここで一度行ってしまえば慣れてしまうだろうと考えた私。一気に実行してしまった。これがPキャン旅行のはじまりなのでした。