奔れ晋作! 榛葉英治 日本経済新聞社 1990年 1262円+税

 高杉晋作の活躍する長州維新風雲録。

 人気のある維新物、晋作物である。作者はこれまで大隈重信、板垣退助の小説を手がけてきたので、当然の帰結として晋作にたどりついたという。作家なら取り組んでみたい魅力的な人物であるのは誰でも感じるところだろう。

 晋作物語としては当然、吉田松陰からはじまる。松陰の活動、投獄、刑死とすすみ、長州藩内での佐幕派と倒幕開国派の争いが長州、江戸、京都、大阪を舞台に展開する。尊皇攘夷派が優位になったり、幕府派が盛り返したりと、めまぐるしく歴史が回転していくのは、誰もが知っているとおりだ。

 ハイライトは攘夷を実行した長州藩が下関沖の外国船を砲撃したが、反撃されて敗れ、敗戦の交渉役として晋作が傲然と諸外国と対峙するシーンーー英国が彦島の租借をもとめると断固拒否するところはわかっていても感動するーー、もうひとつは攻め込んできた幕府軍を撃退して勝利するシーンである。

 その間の紆余曲折が読み応えがある。

 榛葉の小説ははじめてである。以前に釣りのエッセイと半生をふりかえった『八十年 現身(うつしみ)の記』を読んだことがあり、あくの強い印象を受け、小説も読んでみたいと思っていた。

 本書は文句なくおもしろい。テンポよく読ませるし、歴史読み物として成功していると思う。しかしストーリー中心の説明調で、人物造形に深みがない恨みがある。文章のつながりに飛躍もあり、主語がわからなくなるような部分も散見されるのが残念であった。

 作者は女を書くのが得意であると『八十年 現身の記』で書いていた。こんどは女性のでてくる小説を読んでみたい。

 作者は平成11年に亡くなられていることを今回確認した。ご冥福を祈る。

 

 

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