蛇にピアス 金原ひとみ 集英社 2004年 1200円+税

 セックスと酒と暴力、そしてピアスの小説。

 しっくりこない、共感できない作品だ。全編で怠惰な生活がえがかれていて、登場人物たちはセックスと酒と刺青、ピアスのことだけを考えて生きている。生きてはいるが、自暴自棄で破滅的だ。

 私が10代のときに、『限りなく透明に近いブルー』という作品が発表されて、衝撃をうけた。村上龍は天才だと思ったものだが、あの小説にもドラッグとセックス、ロックと暴力がえがかれていて、反社会的だと物議をかもしたものだが、作品はきらめくような才能にみちていた。蛇にピアス、には光が感じられない。生きていく痛みばかりが眼について、文学的といえば文学的だが、マイナスの作用の大きい作風だ。

 若い年代の人間の心は、社会に迎合できないし、共感もできないし、人も信じられなくて、生きていく意味さえも見出せず、苦しいばかりなのはよくわかる。それを題材にして小説を書くのなら、否定的なら否定で、破滅的なら破滅で、めくるめくような文学的な、眩暈のするようなかがやきを見せて欲しいものだ。その力が足りないと思う。

 本書はすばる文学賞受賞作だ。そしてそのまま芥川賞も受賞している。文芸誌の新人賞はわかるが、芥川賞というのは納得がいかない。作者が若くて内容が刺激的だから、文学振興の意味をこめて選んだのだろうか。これまで読んだ芥川賞作品のなかでいちばん力がないと思う。

 おなじ路線ではすぐに飽きられるだろう。ここから新境地をひらけるのかにかかっていると思う。

 

 

 

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