日の砦 黒井千次 講談社 2004年 1600円+税
ベテランの手による枯れた作風の短編集。
定年を迎えようとしている主人公が、職を辞して家で暮らす日々を追っていく連作短編集である。
静かな物語である。日々の何気ない出来事がとりあげられていて、ときに人のことばや態度に心をざわめかされるが、何もおこらない。刺激的な展開になりそうにはなるが、そこまでいたらない作風なのは、誰もの日常とおなじなのではなかろうか。
妻と娘に軽んじられている夫という設定はなじめないものがある。女子供に主導権をとられている男をえがくのが普遍的なのか、物語としておさまりがよいから作者がそうしたのかわからないが、愉快ではない。
丁寧に書かれているのでじっくりと文字を追っていった。味わいのある作品集。しかし平坦すぎて若い人にはよさはわからないだろう。