ＨＯＫＫＡＩ 髙城のぶ子 新潮社 ２００５年 １６００円＋税
江戸末期に長州藩士として生まれ、明治維新後は５０才まで政府の官僚として活躍し、以降は画家として生きた『高島北海』の評伝をモチーフにした小説である。
北海はじつに起伏にとんだ人生を歩んだ人である。その内容だけで何冊もの書をものすることができそうだが、作者は単純な伝記ではなく、凝った構成で『北海伝』の小説をつくりあげている。北海を時代順に追うのではなく、語り手をつぎつぎと変え、時代も行ったりきたりして変化をつけてあるのだ。
現代の北海を書いている、作者の分身とおぼしき作家の生活から物語ははじまる。つづいてフランス留学時代は下宿屋の娘によって語られ、萩の藩校時代は、明倫館でともに学んだ友人の乃木希典がはなす。ほかに鉱山技術と鉱脈について学んでいたときのことは、政府のお雇い外国人、仏人技師の妻が語ったり、もちろん高島本人の視点もでてくる。いちばんボリュームのあるのはやはりフランス留学時代のことで、ここでも多くの人が高島について語るのだ。
読みはじめると、語り手と時代がくるくると変わり、前後のつながりがないので、読みづらい。しかしこの独特のスタイルに慣れてくるとページのすすみも順調になった。
留学中に工芸家のエミール・ガレと知りあい、日本趣味がブームとなっていた彼の地で正確な日本文化を紹介し、ガレの作風に影響をあたえたことは、日本人として誇らしいエピソードだ。
折々に作者が登場し、作品をコンロールしたり、方向を変えたり、結論を述べたりする。そしてラストを飾るのも作者である。北海の足跡をおってたずねた飛騨高山でこの小説は終わる。
作者はありきたりの評伝では平板で面白くないと考えて、このスタイルをとったのだろう。たしかに味のある小説に仕上がっているが、水準としては平凡な出来だ。北海ではなく、髙樹のぶ子の刺激的な才気走った作品が読みたかった者としては、期待がかなえられずに終わってしまった。
肩に力のはいっていない作品なので、スラスラとながれるように読めてしまう。