北海道人ー松浦武四郎 佐江衆一 新人物往来社 1999年 1800円+税

 江戸時代の末期に蝦夷地と樺太を踏破、調査した松浦武四郎の一代記である。

 武四郎はロシアの南下政策により、蝦夷地が蚕食される危険があると知り、それを防がんとして独力で蝦夷地にわたり、彼の地での見聞を多数出版し、幕府や明治政府に蝦夷地の発展のための建策をした人物である。

 時代は帝国主義、植民地主義のときである。欧米列強は世界各地で勢力を伸ばそうとして、軍事力にまかせて領土・権益を拡大していた。当時の日本の徳川幕府は鎖国政策をとり、海防の備えもせず、無為無策で世界からとりのこされていた。危機感を抱いた武四郎らは幕府に建白をするが、聞き入れられない。そして時代はペリーの来航、開国、明治維新とながれてゆく。

 この間に武四郎は私人としての蝦夷専門家から、幕府の役人としての調査を経て、明治新政府でも蝦夷地の国づくりに関わりあうようになる。北海道という名前や、支庁の名、道の造作、そして札幌に首都を建設することを提案しているのである。そしてなにより差別され、虐待、酷使されているアイヌの保護を訴えているのだった。

 しかし長年続いた役人によるアイヌへの虐待、収奪は明治新政府になってもやまず、理想の国づくりがなされないことに義憤にかられて、武四郎は職を辞してしまう。 

 本書は武四郎が蝦夷行きを志してから死ぬまでの人生を描ききっている。抑えた筆致で冷静・客観的に書かれていて、ときにそれが物足りなくなるほどであるが、作者は意図して、史実に忠実であろうとしてそうしたそうだ。したがって誠実な筆の書である。

 作者は若いころから武四郎を書こうとして、武四郎の歩いた道をたどったりしてきたそうだ。作者の思い入れを感じさせる作品である。

 

 

  

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