本読みの獣道 田中 眞澄 みすず書房 2013年 2400円+税

日経新聞に紹介されていて手にとった。

小津安二郎が専門家の映画史家、古本読みの作者の書いた私小説のようなエッセイである。

1946年に生まれた筆者はまず子供のころに読んだ童話について語る。様々な版を読み直してアンデルセンや小公子、小公女、ハイジ、ロビンソン、赤毛のアン、若草物語などについて語るのである。

童話の粗筋を軸にしてこれまでに蓄積してきた知識や子供のころの思い出をおりまぜてゆく。童話の話ばかりになると退屈で、作者が自分のことを語る部分が魅力である。 

後半は古本屋めぐりとその読書となる。 

作者は東京近郊を主体に日本中の古本屋をめぐり、眼についた本を買っては読破してゆく。その数は驚くべきものだし、ジャンルも多岐にわたる。そして面白くて親しみ深いのは、古本屋の店頭に並ぶ、100円均一コーナーを愛している店である。 

100円ほどで買った本を読んでは一行のコメントを加えてゆく、古本行脚はじつに興味深く、作者にしか書けないものであろう。戦中戦後派だけに戦争物が多いのが読者としては不満のところだが、それは作者の嗜好だからどうしようもない。

又、作者のいちばん愛する映画は三里塚のもので、小説はプロレタリア文学だということだから、左翼的に思考が色濃く出ている。これは好みの分かれるところだろう。因みに私は左翼的な思考は嫌いだが、作者の知識と読書に対する情熱により、気にはなったが楽しく読んだ。 

田中眞澄ははじめて読んだのだが、すでに亡くなってしまったそうだ。これから彼の他の作品も読んでみたいと思う。 

彼の作品には関係がないが、解説がいただけない。感情のコントロールのできていないくて、だらだらと書かれている。田中眞澄の歯切れのよい文章を読んだ後では、興醒めだった。それが田中眞澄を敬愛するが故であっても。

本は増えてしまうからなるべく買わないようにしているのだが、今度古本屋にいって本との出会いを楽しんでみようと思っている。その際に買うのは、もちろん店頭においてある100円特価本である。 

 

 

 

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