田舎暮らしに殺されない法 丸山健二 朝日新聞出版 2008年 1300円+税

 田舎の現実を知らねば田舎暮らしはするなという警告の書。

 田舎は自然が豊かで、そこに住む住民も人情味があふれているというイメージがある。しかし現実にはそうではないと作者は語る。自然が豊富なのはその環境が厳しいことの裏返しで、冬の風雪や崖崩れ、鉄砲水の危険があり、人間も視野が狭く、嫉妬深くて、陰湿で意地悪であり、排他的だと。テレビや雑誌で取り上げられているような、楽園のような田舎は存在しない、地元の人と友達になって楽しそうに歓談しているシーンがテレビでよく出るが、余所者は決して仲間になれない、と作者は語るのだ。

 作者の言っていることは真実だろう。イメージだけで田舎をとらえて、都会の激しい人間関係と競争から逃れられると思って、田舎暮らしを始める人も多いだろうから、その前に本書を読む価値がある。ただし、そんな読者が腹を立てるのは間違いのない内容だ。

 長野県在住の作者はこの種のことを昔からエッセイで書いてきた。地元の人たちのことを悪しざまに書いて顰蹙を買ったこともあるようだーーたしか、安曇野、というエッセイだった。本書で作者が罵倒しているのは、田舎暮らしをしようと考えている人たちのことである。ちょうど定年になった団塊の世代をとくにたたいている。田舎暮らしをしようなどと考えているのは現実が見えていないのではないか、逃避したいだけなのではないか、他のことが思いつかず安易にやってみようとしているだけなのではないか、と。作者は自分のことは棚に上げて、他者を誹謗中傷することが多いが、本書もその例に漏れない。田舎暮らしをしようなどと考えている人間は、自立できていない子供大人ではないのか、とまで書いている。

 読みすすむとあまりの馬鹿馬鹿しさと独善性に放り出したくなるが、実用的なものも散見される。それは田舎は意外に押し込み強盗が多く、ターゲットになりやすいのは、田舎暮らしを始めた新しい洒落た家なのだそうだ。強盗から身を守るためには、犬を飼い、更に寝室を頑丈につくり、手製の槍などで万が一に備えるべきだと作者は語る。強盗は昼もセールスマンなどを装ってやってきて、こちらが老人ひとりと見ると、強盗に即座に変わるから油断大敵とも。

 田舎暮らしをしようと考えている人は読む価値がある本だろう。しかし、小説ではあんなにも素晴らしいものを書く作者なのに、エッセイとなると鼻持ちならない人間性ばかり見せられてげんなりしてしまう。もっと大人になりなさい、と言ってあげたいくらいだ。

 

   

 

 

 

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