イラクサ アリス・マンロー 新潮社クレストブック 2400円+税 2006年

 翻訳が悪くて非常に読みにくい短編集。

 作者はカナダで短編の女王と呼ばれるほどの名手なのだそうだ。カナダ、アメリカで様々な文学賞も受賞していると言う。書かれているのはカナダの地方都市に住む人たちの日常生活である。70才をこえたベテランが書く小説なので、年齢の高い人物の物語が多いのが特徴的だ。人が生まれてから死ぬまでの過程を知り尽くしていて、ごく自然に人生のどの場面でも書くことができる、力量を感じた。

 この作者にしか書けない、痴呆老人の現実をえがいた話などがあってとても興味深いが、とにかく訳が悪い。日本語になっていない文章も散見されるが、ただ英文をコンピューターの翻訳ソフトで訳したような、機械的な文体となっているのだ。○○が××した、――それは△△だからで、――の前は□□だったから。こんな感じの文章がずっとつづく。小説を読みだしても、物語の筋道がよくわからず、苛々させられることもしばしばあり、あまりに訳が悪くて、P100ほどで投げ出しそうになってしまった。読了したのは、ひとえに、たまたま他の本が手元になかったからである。

 近年では最悪の訳だ。新潮社のクレストブックはこれまで、水準の高い作品と翻訳で信頼していたのだが、これでは新潮社の姿勢さえ疑う。文学作品はただ原文を日本語の単語に置き換えればよいというものではないはずだ。もっと文学的な素養とセンスのある者に訳してもらいたい。これからはクレストブックもよくよく吟味してから読むことに決めた。

 別の訳者が翻訳したものなら、カナダの名手の作品をまた読んでみたい。

 

 

 

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