ジョン・ランプリエールの辞書  ローレンス・ノーフォーク  東京創元社  2000年  5000円

 キャッチ・コピーは「エーコ+ピンチョン+ディケンズ+007!」 ピンチョンとディケンズは読んだことがないのでわからないが、たしかにエーコ風。しかし007ではない。18世紀のロンドンを舞台に東インド会社、密貿易、ユグノー弾圧(新教徒)、ギリシャ・ローマ神話などの歴史的事実の上に展開するミステリー。
 当時の地理、歴史、自然科学、法律、犯罪、交通、芸術、娯楽、科学技術など広範かつ細密な部分についての記述が魅力であり、エーコ風なところ。しかし作者独自のスタイルだ。
 ジョン・ランブリエールは実在の人物で、辞書も編纂され、現在でも出版されているという。ちなみに辞書は普通のものではなく、ギリシャ・ローマ時代の神話や古典文学に言及されている人名、地名を網羅したものだそうだ。
 内容は非常に深く、多岐にわたり、知的好奇心を刺激されて、著者の今後が注目される。しかし訳が悪い。推理小説系出版社の訳はつねに文芸出版社よりも劣るが、この本もご多分にもれない。物語は変転をくりかえすが、はげしい展開部では、ストーリーが混乱し、どうなったのかわからなくなる。行きつ戻りつして読み直すことを余儀なくされて、興醒めである。どうにかならないのだろうか。
 

 

 

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