13  JUSAN  古川日出男  幻冬社  1900円  1998年

 図書館で背表紙にひかれて手にとった未知の作者の本。表紙をながめ、書き出しの一行を読んで借りることにした。このように選んだ本で失敗したことはないが、本書も期待を裏切らなかった。書き出しがよい。

 1968年に東京の北多摩に生まれた橋本響一は、二十六歳の時に神を映像に収めることに成功した。

 馬鹿げたカルトものではない。前衛的な野心あふれる純文学である。
 物語は主人公の響一の生い立ちからはじまり、従兄である霊長類学者との関係で、中部アフリカ・ザイールの森の民、ウライネと知りあい、霊的な兄弟となって展開していく。響一は高校進学をせずにザイールにわたり、ウライネと暮らす。そして大事件が起こって第一部が終わり、第二部にはいると小説はそのスタイルを一変させる。非常に凝った、独創的な構成をとりつつ、小説は響一のその後をたどる。舞台は南米アメリカ大陸と、合衆国、日本である。
 ザイールの描写は現地に行ったとしか考えられないディテール。霊長類のフィールド・ワーク、キリスト教、コンピューターの造詣も深い。
 作者の才気がほとばしっている意欲作。大変な力量をしめす細部の仕上がりと統一感。この作者を知らなくて迂闊だった。2002年でいちばんの収穫。








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