化装 田久保英夫
芥川賞選考委員だった著者の絶筆。設定はいつもとおなじだ。作家で大学講師もつとめる私、妻とふたりの娘、老母の家族。そして若い愛人との生活が露見して破局するまでを描いている。
内容は救いがたいが、丁寧に書かれた水準の高い作品。仏教思想を背景にひびかせて格調を高め、人物を多く登場させて重層的にしている。
絶筆では谷崎がよく話題となる。息子の嫁に懸想して、足で踏んでもらいたいと想像する老人。開高の珠玉という絶筆はこれよりはるかに落ちる二番煎じで、若い娘に小便をかけてもらうという、スカトロまがい。
この作品は上の二作品をこえていると思う。ラストは力強く意外で、力量を如何なく発揮している。新作を読めないことが残念でならない。