梯の立つ都市 冥府と永遠の花 日野啓三 集英社 1700円+税 2001年

 1990年代に書かれた8編の短編集。

 書名は、きざはしのたつとし、と読む。冥府と永遠の花、とともに作品の名前がタイトルとなっている。各短編は思索に思索をかさねたものを、選びぬかれた言葉で繊細に書かれたものだ。そしてこの作品を書いている間に作者は病と闘い、死を身近に感じていたので、痛切な、身に迫るような肌触りである。

 外界の刺激を自身の中に取り込んで、それを自分にひきつけて深く思索し、世界を作者の考えと言葉で表現しようとしている。その試みは成功している。そして文体はとても味わい深く、じっくりと読みたいものだ。

 作者が亡くなって新作が読めないことが残念だ。逆に言えば、このような作品は死期が迫らないと書けないものなのかもしれない。

 

 

 

 

 

             文学の旅・トップ