傷だらけの天使 矢作俊彦 講談社 1700円+税 2008年

 1974年から1975年にかけて同名のテレビ・ドラマが放映されていた。ショウケンこと萩原健一が主演でーー役名は小暮修・こぐれおさむーー水谷豊が、乾亨・いぬいあきら、という名で弟分として登場する、ちょっとエッチで暴力的な探偵物だった。私はリアルタイムでは見ることはできなかったが、再放送に夢中になったものである。何度も再放送されていたから、私と同じように視聴された方も多いと思う。本書はこのドラマの30年後をえがいたものなのである。

 60近くになった修は止むにやまれぬ理由で、弟分の亨が死んでから足を踏み入れたことのなかった、思い出の地の新宿に帰ってくる。修が当時住んでいたのは代々木駅前なのである。

 新宿に着いた修は悪い奴らに遭遇し、昔のドラマをこえる大事件に巻き込まれてしまう。物語の合い間には昔のドラマのシーンが効果的に織り込まれている。修がかつて勤めていた綾部探偵社の社長の綾部貴子、その秘書の辰巳五郎、そして作者が作りだした魅力的なキャラクターが絡んでエンターテイメントなストーリーは疾走し、読者を離さなくなるのだ。

 現代の物語らしくネットの世界が効果的に利用されている。それが伏線になっているのだが、バーチャルと現実が入り乱れて、物語に深みを出すことに成功している。

 悪役の設定は幼稚だ。安易だというべきか。子供だましのレベルだが娯楽小説としてみればこれでよいのだろう。

 昔のドラマを見た人には是非すすめたい一冊で、見ていない方も十分に楽しめると思う。

 しかし、よくこんなアイデアを思いついたものだと思う。作者の発想力には敬意を表する。

 

 

 

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