くるーり くるくる 松山巌 幻戯書房 2003年 1900円+税
味わい深い短編小説集。
エッセイ風の私小説や旅行記風の私小説がならぶ。どれもがエッセイのようであり、私小説のようでもあるが、これが作者の作風だ。エッセイや旅行記のなかに父や母、兄や親戚、友人、生まれた土地のことなどが織り込まれており、ほとんど事実かと思わせるが、作り物の匂いがするときもある。それもまた味のうちだろう。
文学界に『闇のなかの石』が連載されていたときに作者を知り、『闇のなかの石』が出版されたときにまた読み直した。そして『日光』を手にとったがこれは途中で投げだしてしまった。あのころと作風はずいぶんと変わり、軽く、読みやすくなり、円熟した印象だ。しかし私としては、重苦しくて屈託している『闇のなかの石』のタッチのほうが好みである。
どの作品も周到に計算され、伏線がはられていて、文字もえらびぬかれている。それなのにそうと感じさせずにスラスラと読める。初出の紹介がないので書き下ろしなのだろうか。これだけ水準の高い作品を文芸誌が掲載しないのはいかがなものかと感じてしまった。
気のきいた、知的な短編集。