教誨師 堀川恵子 講談社 2014年 1700円+税

50年以上にわたって死刑囚の教誨師をつづけてきた僧侶の証言と記録をまとめた、重いドキュメント。

作者は死刑囚の周辺のことを書いているドキュメンタリー作家のようだ。作者の他の作品は、『死刑の基準ー「永山裁判が遺したもの』、『裁かれた命ー死刑囚から届いた手紙』、『永山則夫ー封印された鑑定結果』など。死刑囚と司法、裁判に強い関心のある人のようだ。問題意識も持っているのだろうと思われる。 

その作者が3年ほどの時間をかけて書き上げたのが、これまで外部に漏れることのなかつた、教誨師の仕事の内容と現実である。

教誨師と言うと、高い人格と見識のある宗教者が、死刑囚を教え導き、刑が執行されるときも、死刑囚の不安をしずめてやるというイメージがある。しかし、この本に書かれた50年も教誨師をつとめた僧でも、無力感に苦しみ、何より自分がかかわった死刑囚が死んでゆくことに苦しんでいる。宗教者としての使命感と、社会的な貢献をめざしている僧侶にしてである。

本書は教誨師を書くことで、死刑囚や死刑執行そのものもえがいてゆく。死刑は司法の場で決められ、国民の多くも存続を支持している。私も支持している。しかし、刑を執行している人たちがいて、見送る教誨師もおり、彼らは繰り返される死の現場で疲弊している。

作者は主人公の僧侶から、自分の死後に本をだすように言われ、それを守った。主人公の僧はまことに人間味のある方だが、作者もまたそうなのだろう。作者は僧から話を聞くのに1年半ほどかかってる。その間何度も通ったわけだが、僧は作者の人となりを見ていたであろうし、その作品も読んだはずだ。したがってこの作品は、ふたりのこころがかよいあっているドキュメントである。 

 

 

 

 

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