ミッションの変調

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 うどんを求めて林道ツーリングにでかけた6月3日のときのこと、バイクの変調を感じた。3速のときだけ排気音がちがうのだ。注意してみると、ヒューン、というギヤ鳴りと震動をともなっている。チェーンが伸びているのと、注油がたりない自覚があり、帰ってこれを正してエンジン・オイルを換えれば、どうにかなるだろうかと考えた。

 6月17日にチェーンをはり、オイルをさして、洗車をしていると、Fフォークのオイルシールがやぶれてオイル漏れをおこしているのを発見した。オイルがながれてフロント・ブレーキの効きまで悪くなっている。そういえば林道を走っているときにも、ブレーキが効かないなと感じていたのだった(我ながら、鈍感だ)。

 これは自分では直せないので、すかさずバイク屋にいき修理を依頼することにした。走っていくとやはり3速の変調も気にかかる。メカニックにギヤの症状を告げると、3速はよくつかうので、ながい使用により3速だけガタが生じたのではないか、とのこと。上質なオイルに換えて、3速で引っぱったり、エンブレをかけたりせず、乱暴な運転をしなければもつのではないか、とのことだが、ガタがでる前によいオイルを使うのは効果があるのですが、ガタがでた後だと、うーん、最終的には…‥、語尾をにごして言わなかったが、言外のニュアンスとしては当然ながら、修理が必要です、であった。

 とりあえずFフォークのオイルシールの交換のみ依頼して、歩いて帰宅したが、ミッションが気になる。そこでDR650のオーナークラブ、友の会、DOT−NのHPの掲示板にて相談してみた。すると大家のカモちんさんが、修理したほうがよいのでは、ほかのメンバーのゆーじさんのRSも、〇×速がおかしいといっていたら不動車になってしまった、とのこと。愛着のあるバイクが壊れてしまうのはたまらないので、ミッションのオーバー・ホールを決意した。

 ところでバイクの整備をたのんでいるのはスズキ系のショップではない。近くにある便利な店なのだが、部品を発注するのがたいへんなのだ。古い逆輸入車なので、車検証のコピーをディーラーにだして、たしかにバイクがあるから部品を売ってくれ、という手続きをしなければならず、時間もかかる。部品代に店のマージンが乗っている気もするが、ショップが少々儲けるのは当り前だと黙認もしているのだ。そこへミッションのオーバー・ホールも発注した。メカニックはまずFフォークの修理をして、その後試乗し、症状をみて連絡するとのことだった。

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 DOT−N、友の会の皆様には暖かい助言などをいただいた。さてオーバーホールはいつからかと待っていると、6月22日にバイク屋から電話があり、エンジン部品の発注にはパーツリストが必要で、まずこれを取り寄せてもらってからでないと修理にかかれないという。パーツリストは1週間で来るかもしれないが、1月かかるかもしれぬ。料金は5千円ほどとのこと。これで、8月11日からの北海道ツーリングに間にあうのか、と問うと、それだけあればなんとかなると思います、とのこと。ほかに選択肢はないので、やってくれとゴーサインをだしたが、Fフォークの修理が1諭吉、ミッションのオーバーホールが10諭吉としても、タイヤを前後変えるつもりだったので1諭吉、さらに年末には車検がある。これって乗り換え時か? と悩んでしまった。家内に話すと、ふつうはさよならよね、とサラッと言うのだ。しかし、いや、しかし、まだRSとは別れたくない。かなりくたびれてきたけれど、まだほかのバイクに変えたくないのだ。自分のその気持ちを確認して、整備を続行させた。

 翌日バイク屋から電話がはいった。ローホーさん、マニュアルを持ってらっしゃるなら、貸してもらえませんか、確実に整備するためにはそのほうがよいと思って連絡しました、とのことで、これはもっともなのでマニュアルを持参した。

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 日が過ぎてもなかなかパーツリストが入荷せず、焦ってきた。バイクと車関係の仕事をしている友人に電話をして聞いてみると、メーカーにはパーツリストがあるはずだから、それをコピーするなり、ファックスしたりしてもらえばいいのでは、とのこと。パーツリストがないと発注できないなんて、聞いたことがない、と。とりあえずエンジンをばらしてから、部品交換すればいいのではないのか、とも。D0T−NメンバーのRS乗りのボヤさんのところは、部品は3日で入荷すると言っているのだし、それらのことをバイク屋にぶつけると、メーカーのパーツセンターにRSのパーツリストがないそうなのだ。次の型からあるとのこと。1990年型の大稀少車なので、そんなこともあるのかとは思ったが、それならば他県のセンターに問い合わせはできないのか、と聞いてみると、たのんでみるが、メーカーがどう対応するのかはわからないとのことだった。また古い型なので、エンジンを開けてから部品を発注して、それは欠品です、と言われてしまうリスクがあり、パーツリストで部品が取れることを確認したうえで修理にかかりたいとのこと。それはそれでじつにもっともな考えであった。

 8月から北海道ツーリングにでるので、それまでにどうしてもバイクが必要だ。苦労してフェリー・チケットもおさえてある。RSで行きたいが、修理が間にあわぬのなら、買い換えも考えなければならない。となるとやはりDR650にしたいが、在庫がすくなくて買うこともなかなか難しいらしい。新車は70諭吉らしいので、金策の問題もでてくる。もとよりバイクは趣味のものなので、それに優先する仕事、生活、社会上のことも、いろいろと解決しなければならないことが山積していると言うのに、修理がなるのか、買い換えるのか、残り時間を横目で見ながら、どこかで決断しなければならなくなるかもしれないと、7月直前に考え出した。

 スズキのパーツセンターに、パーツリストを探すために他県に照会してくれという要請をしたが、不発だった。メーカーもそこまではしてくれないのだ。パーツリストがくるのを待つしかないとのことだったが、D0T-Nの掲示板にカモちんさんが、パーツリストが見られる海外サイトを紹介してくれていた。それをバイク屋に知らせると、さっそくパーツナンバーから発注をかけてくれたが、一部番号が違うようだ。国内と海外ではパーツナンバーが微妙に異なるのか、もしくは型がすこし違うためなのか、エンジンが同じものはほかにもあるので、試行錯誤してみるとのことだった。

 海外サイトのパーツナンバーは使えなかった。発注してもエラーになってしまうのだ。やはりパーツリストがくるのを待つほかないと脱力していると、D0T−Nメンバーのゆーじさんから助け舟がきた。パーツリストを貸してくださるとのことで、ぜひ、とお願いした。

 修理が間にあわぬのなら、DRの新車を買うか、それもままならないなら、ほかのバイクの入手も検討しなければと思っていたが、新しいバイクを買うことは、徐々に気持ちのなかから消えていった。北海道ツーリングに当初の予定でいきたいが、修理が間にあわぬなら、延期すればよいだけた。永久ライダーの北野さんや高橋さん、やまちゃんやともさんたちとEOCで飲みたいのは山々だが、こうなってはいたしかたがない。RSは大切な相棒なのだ。それにカモちんさんの利用しているショップ、モトエクスライドさんから、これを機にヘッドのオーバー・ホールをやれば、新車のような圧縮がもどる、どうせエンジン全バラにするなら、部品代はピストンリングくらいで、工賃もほとんど変わらないはず、という誠に親身で理にかなったアドバイスもいただいた。それにしたがって、災い転じて福となすべく、RSのフル・オーバー・ホールへと心は固まっていったのだった。

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 7月7日にバイク屋に電話をすると、パーツリストは依然として入荷せず、いつくるともわからないが、Fフォークのオイルシールの交換は終わったとのこと。メーカーと電話でサイズから部品を特定してやってくれたとのことだが、バイク屋って、こういう連絡はまずしてこない。オーナーはこの情報がほしくて待っていて、電話がないのでこちらからかけているというのに。車屋は作業の都度かならず電話をしてくるのだから、この辺の社会性がバイク屋はたりない。そしてFフォークが直ったら試乗してどこがおかしいのか見てみるとのことだったはずが、そのことも忘れているようだ。エンジンを開けてみれば、プロは試乗しなくともわかるのかもしれないが。

 7月8日、DOT−N友の会のオフ会が都内であり、この席でゆーじさんからパーツリストをお借りすることができた。翌日の7月9日にさっそくコピーし、バイク屋に持参すると、やはり一部パーツナンバーが適合しないが、これでエンジンを開けて見積もりをだし、作業にかかる、というところまでこぎつけることができた。ここでモトエクスライドさんとカモちんさんのアドバイスどおり、ヘッドまわりのオーバー・ホールとピストンリングの交換、さらに自分ではできないキャブのオーバー・ホールまでまとめて依頼した。ちょっと費用が恐いが、やるなら後顧の憂いをなくすべく、一気に作業してしまうほうがよいだろうと考えたのだ。メカニックは、そうですね、たしかにほとんど費用は変わらないから、そのほうがいいですね、では見積もりをだして電話をします、と答えたが、電話はやはりなかった。

 

 ゆーじさんからお借りしたパーツリストをコピー。

 7月10日にバイク屋に電話をすると、まだパーツ照会、発注はしていないとのこと。うーん、ほかの作業がはいっているのかもしれないが、オーナーの気持ちがわかっていないな。こちらは一刻も早くやってもらいたいのだ。問題があったら電話します、というメカニックの言葉に、本当かよ、と思いつつ電話を切った。

 1日置いて7月12日にまたバイク屋に電話をかけた。どうなってます? ときくと、パーツ発注済みで入荷待ちとのこと。ゆーじさんがピストンリングがないみたいと言っていたので、どうですか、ときくと、ピストンリングはあるが、肝心要の3速ギヤ部品が海外専用パーツで国内パーツの代替がなく、メーカーに部品をだしてくれと頼んだところとのこと。この部品がいつ入るのかは、例によって不明とのことだった。こういうことを電話してきてもらいたいのに、またメカニックは、部品がはいったら連絡しますと空手形を振るのだった。腕はいいけど、電話が駄目なメカって、多いよね。

 

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 7月15日、土曜日、ようやく休みの日となった。DRはもう1月入院しているのである。こんなに長期療養となったのはもちろん初めてのことで、DRも寂しがっているだろうとバイク屋にお見舞いにいくと、ついにエンジンがおろされていた。

 

 

 やっと作業がはじまったかと、メカニックに状況を聞くと、海外パーツのギヤ部品はまだだが、ほかの作業はできるので着手したとのこと。それでそのギヤははいりそう? とたずねると、今週か、来週あたりにはいってくれればいいのですが、とのこと。やはりいつくるのかは不明であった。とりあえずめったに見られるものではないので、写真をとらせていただく。ふだんは立ち入り禁止の作業場に特別に入れていただいた。

 

 

 まずピストンは34000キロ走行にしてはきれいで、縦傷も少なく、ピストン・リングを換えるだけでかなりコンディションがよくなるだろうとのこと。カムチェーン、ロッカー・アーム、バルブなども交換は必要なく、まだまだ使用可能とのことだった。

 

 

 ヘッド部分。バルブとバルブ・スプリングが見える。右の銀色の箱の中もDRのパーツ。

 

 

 こちらはまだ割られていないクランク・ケース。コンロッドも見える。問題はやはりここで、オイルをぬくと大量の鉄粉が混ざっていたとのこと。冷や汗、ダクダクである。クランク・ケースを割る工具を他店に貸しているのでここで作業は止まっているとのこと。メカニックにくれぐれもよろしくとたのんでお見舞いをおえた。

 7月20日、バイク屋に電話して進行状況を聞いた。しかし、まったくすすんでいなかった。海外部品のギヤはまだ入荷せず、クランク・ケースを割る工具もまだなくてそのままで、ガスケットやバルブシートなどの交換部品ははいっているそうで、バルブもすり合わせるだけで再使用可というのが、唯一新しいことか。今週末にはクランク・ケースを割ることができ、鉄粉が大量にでているギヤ部分を見ることができそうとのこと。ギヤ部品がはいったら電話します、とメカはまた空手形をふるのだった。

 

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 7月21日にメカニックから電話がはいった。故障の原因がわかったとのこと。クランク・ケースを割りギヤを点検したところ、3速のギヤの歯が欠けていたのを確認。これを交換すれば修理は完了するとのことだった。3速ギヤは明日入荷することになっている、とも言う。いずれにしても今月中には作業は終わります、とのことだった。待ち望んでいた、朗報である。そのかけたギヤを記念にもらいたいというと、とっておきますとのことだった。

 翌7月22日にバイク屋に様子を見に行ってみると、欠けた歯がとなりのギヤでも噛んでいて、そちらの交換も必要とのこと。この部品の入荷は早いはずで、いずれにしても今月中には何とかなります、との説明を受け、交換するギヤを受けとって帰った。しかし見事に欠けていた。正に金属疲労、という感じである。

 

 

 

 メカにだいたいの費用を聞いてみると、キャブ、シリンダー・ヘッド、ミッションの修理・オーバー・ホールで11・2万円くらいとのことだった。また海外専用部品と思われていた3速ギヤは、部品ナンバーが3回も変わっていたためわからなかったのだが、国内部品とのこと。3回も変わったためになかなかわからなかったそうだ。

 RSの修理もほぼ目途がついたので、タイヤを買いにいった。他店でタイヤのキャンペーンをやっているので、そこへ発注にいく。DRのタイヤサイズは特殊なので、まず在庫はないのだ。タイヤはGSX400FやZ750GPに乗っていたころからダンロップと決めている。TT100のころからの古いダンロップファンなのだ。トレイル・マックスの前後タイヤとFチューブを14153円で注文した。店員は当然のように、はいったら取り付けですね、というが、自分でやる、と答える。ああ、そうですか、とあらためてベテランの顔を見る店員だった。

  RSの修理は7月中には作業は終わります、とのことだったのでしばらく我慢していたのだが、28日に電話をしてみた。するとすでにエンジンは仕上がり、車体にのってアイドリングしているとのこと。現在エンジンをかけたままにしてようすを見ているが、これから外装をつけて、実際に走ってみてミッションの調子を見た後に引渡しとなるが、ミッションのオーバーホールをしただけに、慎重に仕上がりを確認したいとのことで、それはこちらも望むところなので、納得のいくまで十分に点検をしてくれとたのんだ。

 一方、タイヤがはいったとの連絡があったので29日に取りにいった。店について、たのんでおいたタイヤを取りにきたのだが、と注文したときとは別の店員にはなすと、これから取り付けですね、とまたいう。いや、自分でやるからもってかえる、というと、やはり、そうですか、とあらためてベテランの顔を見るのだった。オンロードはともかく、オフの人は自分でやる者のほうがおおい、というのはもう昔のことらしい。などと思っていたが、これがたいへんなトラブルを引きおこすのである。それは北海道ツーリング2006でどうぞ。

 さてタイヤも手にはいったので修理が終わるのはいつかと待っていると、30日にメカから電話がはいった。ミッション、エンジンの修理調整、試乗は終わったが、気になる点が3ヵ所あるとのこと。シフトペダルのゴムがダメになっていること、バッテリーの交換が必要なこと、そしてフロントブレーキのキャリパーのピストンが用をなしていなくて、オーバーホールが必要とのこと。じつはブレーキが効かないなとは思っていたのだ。しかしもうずいぶんと待っているので、金曜日には仕上げる、という約束で修理の追加を発注した。こちらの費用は2万円ほどとのこと。今週末はタイヤ交換をしなければならないし、できればその前に500キロほど走ってオイル交換をしたいとおもっていたのだ。そちらが気になって、北海道の日程がいまひとつ決まらない今日このごろである。

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 修理はいつ終わるのかと待ちかねてすごし、どうにも我慢ならなくなって8月3日にバイク屋に電話をした。するとすべての修理は終わっており、最終調整と試乗をしているところだが、もう引き渡せるとのこと。さっそく引き取りにいった。

 バイク屋につくとメカの手でDRが引き出されてきた。じつに1ヵ月半ぶりだ。どこも変わりはないようだが、エンジンのフル・オーバーホールをしただけに、ただでさえ気難しかったエンジン特性が変化して、今までとは違ってしまったのではないかと危惧していた。しかしそれは杞憂だった。13年の付き合いなのだ。私の知らない側面などないDRであった。

 料金はキャブ、エンジン、ミッションのフル・オーバーホールが133066円(部品代59230円、工賃67500円、消費税6336円)。フロントフォーク関係部品代は9000円、シフトペダルラバー220円、Fブレーキ・インナーキット2450円、バッテリー7840円、これらの工賃が12600円、消費税1388円。合計162233円だった。

 恐るおそるキックペダルを踏むと3回目で始動した。乗り出してみると非常にスムーズ。ギヤやエンジンの回転が滑らかで、バルブタイミングやキャブの調整、各種の数値が適正値になって本来の力を発揮しているようだ。パワーも2・3割アップした感じ。排気音も今まではバラバラとバラついていたのがなくなり、力強くなっている。吸気音も聞いたことのない音がしていて新鮮だ。しかしこれが本当のRSなのだろう。まるで生まれ変わったかのようなバイクにのって感激した。当り前のことだが、プロのメカニックはすごいと、あらためて感心した。

 しかしバイクの修理もついに終わったのだ。じつに長かった。

 

 

 8月5日、慣らしと試運転をかねて木曽福島まで550キロ、そばを食べにでかけた。バイクはやはり絶好調だった。まさしく新車のような感触である。特筆されるのは燃費だった。13年前に手にいれたころはリッターあたり25キロ走った記憶がある。それがだんだんと落ちて、直前では21キロになっていた。これが26キロに大幅アップした。15リッターで予備タンになるのでここまでで400キロ走れてしまう。エンジンの調子を如実にあらわしている。
 そしてこれまではバックファイヤーがひどかったのだが、まったくなくなっていた。キャブのOHの効果もたいへんなものである。当り前だが乗りっぱなしはダメなのだと身にしみてわかった。

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