娘巡礼記 高群逸枝 岩波文庫 2004年 760円+税

 大正7年に24才の作者が四国八十八ヶ所を巡礼した記録。

 女性のひとり旅が珍しかった時代に、若い娘がお遍路をするのはきわめて異例のことだったそうだ。四国遍路も社会的にまともなものとは見なされておらず、夜逃げか業病にかかったのかと思われたとのこと。

 作者は熊本をひとりで出発するが、大分で遍路経験者である老人と出会い、この老翁とふたりで四国を歩くことになる。

 四国で出会う遍路の人々は、社会の底辺で生きる者たちである。その姿が詳細に描写される。

 この作品で印象的なのは主人公の若いがゆえの純粋で博愛主義的な心であり、また文体である。文章は漢文調の散文で書かれており、時に漢文の書き下し文のような堅いものとなる。描写、形容詞、反語、常用句などが小気味よいリズムで綴られているのだ。それは定型的な漢文調ではあるけれど、作者の素養の深さと才気を感じさせるものである。

 作者は小学校長の父をもち、小さいときから漢文の英才教育を受けたそうだ。作者自身も小学校の教諭をしていたとのこと。

 作者は詩集も出しているとのことで、作中に短歌が織り込まれていることも、作品のアクセントとなっている。

 24才と若いときの作品なので、時に幼さもでているが、それも魅力の内だと思う。

 現代とはまるで別世界の四国遍路を知ることのできる書である。

 

 

 

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