鉛のバラ 丸山健二 新潮社 2004年 2000円
俳優の高倉健のみが主役をはれる物語として構想された小説。表紙は高倉の写真で丸山が撮影したもの。丸山は健さんに惚れこんでいる。絶賛だ。
健さんはさておき、小説のなかはいつもの丸山の世界である。ただストーリーに重きをおいているため、いつもの世界を定義する言葉、警句、詩的な描写などが少ない。
主人公は刑期を終えて出所してきた、逃げきりの源造、75才の老人である。源造がふるさとの南の島にもどり、島でストーリーは進んでいく。物語の展開でグイグイと先へ読ませる。犯罪者が主人公なのでストーリーも犯罪が濃くからむ。犯罪や暴力に肯定的なのは丸山の特徴だが、好みの分かれるところだろう。
鉛のバラは、半鐘に打ち込まれて張りついた弾丸である。丸山の小説では小道具と動物が印象的な効果を添えるのだが、今回使われているのは、半鐘、鉛のバラ、特殊な種類の植物のバラ、ウミガメである。
健さんのために書いたというだけあってストーリー重視。いつものように前衛たらん、まったく新しい、だれも書いたことのないスタイルと内容の小説を目指していないのが残念で物足らない。
ただエンターテイメントとしてみれば文句なく一級の作品である。丸山が今回企図したのはそこなのかもしれない。