日本三文オペラ 開高健 新潮社 文庫
久々の開高である。絶筆の珠玉を読んで呆れてしまい、遠ざかっていた。あれはひどかった。興味があれば読んでみればよいが,薦めない。文学論以前に内容が下劣である。
この作品はドキュメントである。大阪城に隣接する、空襲で徹底的に破壊された元軍事工場跡を舞台に、打ち捨てられた工作機械などの鉄塊を盗んで生活していた人々の記録である。もちろん語り手である元乞食の「フクスケ」の視点などの創作もあるが、敗戦直後のたぐい稀な貧しさのなかであった事実を下敷きにしているので、内容に読ませる力がある。
鉄塊は空爆によって吹き飛び、32万坪という広大な敷地の土中に散らばっている。これを見つけて夜のうちに掘り出して、夜明けまでに持ち帰り、転売し、金を分け合う。仲間同士でモツを食い、密造のどぶろくを飲み、作戦を練るところなどは、猥雑さがよい味をだしている。
開高らしい表現、詩的な比喩や修飾語が散りばめられているが、内容が文学的でなく、国有財産の窃盗団なので、文体によってむしろ停滞してしまう。
パニック、裸の王様、とつづく初期の作品はまばゆいばかりの斬新さと、才能を見せつけている。開高独特のスタイル。
つぎに書かれたこの作品は『オーパ』をはじめ、戦争、釣り、美食とすすんでいった開高のその後を思わせる。
読む価値のある書だが再読はしない。パニック、裸の王様は何度も読んでいるのだが。