大イワナの滝壺 白石勝彦 山と渓谷社 2014年 910円+税

 1942年生まれの作者が、昭和37年から47年にかけて、当時未開拓だった各地の源流部を釣行した記録。

 昭和30年代、40年代の山深い地に道はなく、釣りにゆく人もいなかった。そんな状況のなか、手探りで釣行した、パイオニアの貴重な記録である。

 舞台になるのは飯豊、朝日連峰、寸又川、北海道の日高、知床などである。バスなどの交通機関がないため、長い山道のアプローチを歩き、五万分の一の地図だけをたよりにゴルジュを泳ぎ、滝を高巻きし、危険なトラバースをして、魚止めの滝までゆく冒険だ。

 作者がたどりついたのはイワナの楽園だ。イワナが群泳し、人を見ても恐れずに、仕掛けを入れれば疑いもせずに針にかかってくる、釣師の桃源郷だった。たくさん釣れるだけでなく、40センチから70センチもの巨大なイワナたちもいた。今では考えられない手付かずの自然がのこっていたのだ。

 自然が豊かな故にクマ、ヒグマ、アブにも出会う。そして崖から転落して命拾いする際どいシーンもある。

 今は観光地化されてしまった寸又川、新潟の胎内川、北海道の日高などの当時のようすを知ることのできるドキュメントでもある。

 

 

 

 

 

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