パブロフの鱒  ポール・クイネット  角川書店  2001年

 釣りの心理学について書かれた本。著者は臨床心理学者で専門は薬物乱用、鬱病、自殺。そしてもちろん釣り人でもある。釣りの心理についてのみかかれていて、技術については触れられていない。
 著者は、釣りとは歳月にたえぬく希望だ、と定義する。
 まったく当たりもない日に、暑さや寒さで辛い目にあいながら、我々が釣りをやめないのは、そのうちにはかかるという希望にすがっているためであり、魚が釣れたということは、まさにその希望が叶ったことにほかならない、とする。
 希望のない状態は悲観的で暗い。一方、希望に満ちた人には力と自信がある。つまり釣り人とはそのような人のことだというのである。
 また釣りの醍醐味について著者は述べている。人間は動物であり、捕食者、狩人の野生を秘めている。しかしふだんは胸の奥深くにあって表にはでない。針にかかった魚は自己の生存をかけて全力でたたかう。それを竿を通して感じ、魚を手中にする過程において、人間は本来もっている野生を開放することができる。興奮は釣られようとする魚とおなじレベルに達するために。
 その後、現代人が味わう疎外感などの社会問題にすすんでいくが、これらは釣りに仮託して、専門を語りだし、退屈であった。
 前半はうなずける書。
 

 

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