聖水 青来有一 文藝春秋 2001年 1333円+税

 芥川賞受賞作品の『聖水』を含む水準の高い短編集。

 長崎を舞台とした小説集である。長崎は原爆や隠れキリシタンなどの歴史があるので、作品の舞台とすると、重みとリアリティーがでるようだ。

 短編はどれも時間をかけて熟成されて書かれた印象で、完成度が高い。内容はどれも重苦しく、心に直接訴えかけるような作風だ。『ジェロニモの十字架』と『泥海の兄弟』は初出の文学界掲載時に読んでいたので再読であった。当時この作品を評した文章を読んだが、残酷なことに淫する傾向がある、とされていて、その部分は学術的な記述なのでそんなことはないなと思ったことを覚えている。

 『ジェロニモの十字架』がデビュー作で、その後『聖水』が書かれて芥川賞を受賞するわけだが、作風は深みを増し、物語の構成もより重層的になっていて、今日的な問題もうまく内包されている。ところでこの書は作者の始めての本だろうか。

 『聖水』はほかの芥川賞受賞作品とくらべても水準の高い作品だと思う。いくつものテーマを絡めて構成されていて、物語に厚みをだしている。抑制された筆致や自然描写、情景描写もうまい。とくに『死』をあつかっていてその重さにまったくおされていない点がすばらしい。『聖水』はつづきがあるかのように終わっているので、作者は続編を書く野心をもっているようだ。しかし重いテーマの小説なので、この先をつづるのはたいへんな力量が必要になりそうだ。

 『聖水』の続編だけでなく、作者の今後に注目したい。

 

 

 

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