水中花 田久保英夫 集英社文庫 昭和55年

板橋駅と新板橋駅の間にある古本店、板橋書店の店頭でこの本をみつけた。田久保英夫は好きな作家なので、手にとって冒頭の数行を読んでみた。いつもの通り引き込まれる。100円で手に入れてさっそく読み始めた。

作者の力量は短編も長編もぬきんでている。いつもこれはうまいな、幅と深みがあるな、と感心しながら読むのだが、この作品集は若いときのもののようだ。青臭さはないが、若干の若さの現実からの逃避を感じさせる。 

戦争で死に損なった軍国青年をえがく表題作、水中花。現代ではもうこのジャンルの小説をかける人はいないだろう。他にも正視できないような現実をモチーフにした短編がならぶ。 

子供や女性はこの作家を好まないだろう。そのようなことを作者は読者の提示する。ただ、それがこの世の現実なのだということを私たちは知っている。 

子供と現実を直視するのを好まない人以外におすすめ。

 

 

 

 

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