水晶 シュティフター 岩波文庫 1977年版 100円

 丁寧に書かれた幼い兄妹の雪山遭難譚。

 ドイツの高山地帯を舞台にした小説である。幼い兄妹が降雪にまどわされて道をあやまり、深山に迷い込んでしまう内容だ。降っている雪や積もっている雪の様子、夜の山の情景、巨大な氷塊、夜空が光る描写などが幻想的で美しい。じっさいに冬山に入らなければ書けないと思われる風景描写が印象的だ。どこまでも続く氷塊の連なり、その中にある洞窟のなかが真青に染まっていることが、水晶という名の元になったようだ。

 作者はこの作品を少年・少女のために書いたと述べている。童話のような内容だが大人も十分たのしめる。

 古い作品なので書き出しは冗長である。舞台となる山や村の説明からはじまり、主人公の父母や祖父母のことを語ってから、兄妹が動きだすまでにかなりの枚数をついやして、この間がずっと説明なので退屈だ。物語が流れだせばストーリーは一気にすすんでいくから、はじまりのところは我慢して読んでほしい。スピード感はないがじっくりと味わって読むべき作品なのだ。

 読後感はすがすがしい。どこか懐かしくて、ふだんは忘れている、自分のなかにある、感情を再発見する。

 ありそうでなかなかない美しい小説。

 

 

 

 

 

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