高瀬川女舟歌 澤田ふじ子 新潮社文庫 平成十二年 438円+税

京都の高瀬川沿い、現在の木屋町通りを舞台とした市制人情時代小説である。

高瀬川は角倉了以(すみのくらりょうい)が方広寺大仏殿を再建する際に、資材をはこぶために七万五千両の私財を投じて開削したものだそうだ。以来代々が幕府から支配権をゆるされ、やがて百八十艘の高瀬舟を就航させ、年間一万両の収入をえて、幕府に毎年銀二百枚の運上金を納入していたという。その角倉に縁があるものが営む旅籠を舞台としている。

旅籠の養子である娘を主人公として物語ははじまるが、ヒロインは症によっていれかわってゆく。そして大きなながれをつくってゆくのである。

江戸時代の庶民や悪党の暮らしがえがかれるが、基本的に悪人は登場せず、他人を思いやる、やさしい人ばかりがでてくる。現実はなかなかそういうわけにはいかないが、力のあるものが世のため人のために力量をしめすのが、時代小説のキーポイントかもしれない。 

出だしは説明長で読みにくく、重たい。しだいにストへリーは軽快さをましてゆく。ハッピーエンドばかりではないが、ラストは読者の期待通りなのも、時代小説の大事なところだろう。 

 

 

 

 

 

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