沈黙  古川日出男  幻冬社  1999年  1900円

 『13』で衝撃を受けた古川の本があるのを図書館で発見した。思わず手に取った。前作は絵画、美術、映像というものがテーマだったが、今回は音楽、そして人間の心の正邪である。作者は芸術の3分野を小説にしようと企図したのだろうか。
 人間の心の根源的な悪に、音楽だけが勝てる、がこの作品のテーマである。
 物語は複雑だが、姉と弟の、姉を中心に展開する。偶然知った遠縁にあたる老女と同居することになった美大生の姉は、老女の家の地下室で、この家の死んだ跡取り息子が残したという、『音楽の死』と題された11冊のノートと膨大な量の自主制作版レコードを発見する。ノートにあったのは抹殺された『ルコ』という音楽についての研究、考証、論考であった。
 姉は『ルコ』を探求し、自分でも『ルコ』を創りあげる。死んだ跡取り息子の自主制作版レコードと同じように。作りだされたレコードの音の描写が圧巻である。

 世界は詩のように崩壊する、と本書にある。

 全編を見通すとゆるんでいる部分もあり、関連性の薄いエピソードもある。そのようなところは刈り込めば物語は引き締まり、さらに完成度は高まると感じられるが、秀逸な作品。
 音楽だけが悪を、というテーマで、陳腐にならずに書き上げる力量は瞠目に値する。






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