柔らかな頬 桐野夏生 講談社 1999年
以前から気になっていた作者ではじめて読んでみた。非常に凝った、複雑な構成である。これが成功しているとはいえないが。
少女が行方不明になりそれを追うミステリーだが、人物や全体の構成力はやや不満。またいかにも女性的な感性で書かれている。感触的な性描写が多いので、好む層にはアピールするだろう。風景描写も天性を感じさせるが、文体がときに荒れる。書いているときの気分にムラがあるのか、文体の質が一定していないのが難。
でだしは冗長。説明が多く、放恣な性描写がつづき、投げ出しそうになった。ほかに本をもっていたら間違いなく投げ出しただろう。しかしこれしかなかったので読み進んだ。
少女が行方不明になってようやく物語が動きだし、そこからは一気に読ませる。
参考文献に『イエスの箱舟』事件の本があげられている。作中にそれと符合する部分もあるが、ほとんど関係は薄い。イエス事件を下敷きにして書き始め、進んでいくうちに内容と方向が大きくそれていったのだろうか。