頼朝勘定 山岡荘八 講談社文庫 1989年
池袋の立教大学の手前にある古書店ーー八勝堂ーーの店頭のセール品の中でこの本をみつけた。100円である。
山岡荘八と言えば徳川家康などの大長編が思い浮かぶが、この本は短編集である。信長の幼少期や頼朝が政子に出会う場面、信長のもとにいたと伝わる黒人の巨漢槍持ち、沢庵和尚に楠正成など、じつに多彩な時代、人物たちの物語がならぶ。
作品はいずれもじつにうまい。ハードボイルドのように必要最低限の硬質な文体で、侍や登場人物たちが誇り高く自分を処してゆく。美意識があり、非情さもある。また、人情物も混じっていたりもする。
長編を書いていて、そこに盛り込めなかったエピソードや取材した史実などを元に短編を書いたのだろうかと想像したりしたが、作者の人間としての幅を感じさせる魅力的な短編集だ。
作者の大長編は読んだことがないのだが、手にとってみたくなった。侍を書かせるとすばらしい。