夜ひらく 辻邦生 集英社 1988年 1200円

 ヨーロッパの都市を舞台とし、宝石をモチーフにした短編集。

 辻邦生の作品を読んだのは何年ぶりだろうか。たぶん20年はたっていると思われるが、以前に手にしたのも短編集で、若い男女の生真面目で生硬な恋愛をえがいたものだったと記憶する。その後、作者の大学時代から就職、結婚、そして作家になるまでの過程を新聞に連載したものを読んだ。作家になるには金と女に苦労しなければならないと言われていたが、そのどちらで苦しむのも嫌だったと、読んだと思う。それらのことがこの本の作者名を見て想起された。

 夜ひらく、という印象的なタイトルと、闇のなかに煌々と明かりのついたドア、をあしらった装丁を見て本をひらくと、上部に余白を多くとった洋書のような段組で、洒落たつくりのこの本を読んでみることにした。

 書き出しはぎこちない。力がはいりすぎているのか、これがスタイルなのか、グネグネとした長い文章ではじまる。もっと自然にはじめたほうがよいと私は思うが、それは好みの問題だろう。

 作品はどれも非常に凝った構成となっている。作品中に別の物語がかたられたり、新聞記事がさしこまれたり、夢と現実が入り混じったりする。巧妙に伏線がひかれ、読者をクライマックスにひっぱっていくが、ときにあざといほど読み手をじらしてから、破局に案内する。

 外国を舞台に、外国人を主人公としたことで荒唐無稽なストーリーにリアリティーがでている。これを日本を舞台としてやろうとしてもダメであろう。

 作者の博識さが作品中に散りばめられていて、それも怪しいこの物語にあっており、趣向は大人のファンタジーのような作品集。ただし辛口の。

 作者の技量と才能に感嘆した。

 

 

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