夢ごころ 田久保英夫 新潮社 1991年
現代能楽抄、と副題のついた短編連作集。それぞれのタイトルが、高砂、班女、紅葉狩、と能楽のタイトルがつけられているようだ。(推測である。素養がなく、ほんとうのところは確認していない)
作者とかさなる初老の大学教授と、老いた母、妻、娘、娘婿、浮気相手などが織り成す物語。いずれも何かがおこりそうな予感を秘めて進行し、精神のゆれのなかで展開して、危うさのなかに踏み込んで、何事かがおこる直前で、あざとく終わる。手練の珠玉集。短編小説の真髄。芸術の極み。作者の才能と研鑽を文句なくみせつける書。