2012年 北海道ツーリング 2日目 初日から林道を激走

 

 士幌高原ヌプカの里 バイクはハーレー・サイドカー

 

 1時くらいから断続的に眼が覚めた。かなり酒がのこっている。それはそうだ。21時すぎまで飲んでいたのだから、まだ4時間しかたっていない。早朝に小樽につくのはわかっていたのだから、飲酒を控えればよいのだが、そうはいかないのは毎度のこと。バイクではないがエンジンがかかると走っちゃうんだよね。

 トイレにいって水を飲み、また寝たが船内があわただしくなったので3時に起床した。気分が悪い。胃がムカムカする。体がだるく、頭が重い。完全な二日酔いだ。まだ眠っていたかったが体をおこした。

 昨日も話をしたハーレー氏と会話しつつ下船の時間をまつ。私は宿酔だがハーレー氏は元気だ。ハーレー氏は元教師で柔道部の顧問をされていたとのこと。元教諭で柔道家でハーレー乗りのハンターだ。とても話が興味深く頼りがいのある方だった。

 やがて車の下船の時刻となった。おかちゃんとマユミさんを見送らなければと思うが、体がだるくて胃がムカムカして動けない。寝台にすわったままハーレー氏と会話をしていると、4時40分にバイクの下船の準備ができたと放送が入る。ハーレー氏と船倉にむかうと、下船のチェックにつかうのはやはりバーコード・リーダーで、またしても進歩したなと感じてしまうのだった。

 5時に船のスロープを下りていくと、おかちゃんとマユミさんが待っていてくれた。これは申し訳ないことをした。おふたりは支笏湖にずっと滞在されるそうだ。おかちゃんと出会った場所の支笏湖だ。私も大好きな湖である。しかし今回は支笏湖にはいかない予定なので、次の再会を約して走りだした。

 フェリー・ターミナルをでるとすぐになか卯がある。去年はここで朝食をとったのだが、今年は胃がムカムカして食欲がない。そのまますすむと札樽道の入口があったので高速にはいった。札幌まで100円。その先の札幌新道が350円。札幌は大都会だ。ビルが延々とつづく。札幌の街をながめながら、北海道にやってきたなと思う。今年も北の大地に来たんだなと。

 札幌をはなれると霧となった。太陽が隠れると寒い。帯広方向にむかってゆくが目的地は士幌高原ヌプカの里である。ここは景色のすばらしいキャンプ場なのだ。SAかPAで食事をとりたいと思っていたが、レストランが1軒もない。食堂どころか道東道にはGSもないのだ。これには驚いたが腹が減ってしまった。

 由仁PAで休憩をとった。この先の占冠は山岳地帯となり、去年とても寒い思いをしたので、Tシャツとジャケットに長袖シャツを追加した。それでも走りだすと寒い。空腹だし眠くもなってきた。高速をおりるのは芽室ICの予定だが、周辺にはレストランはなかったと思うので、手前の十勝清水で出ることにする。料金は750円だった。

 

 焼き豚丼の朝食

 

 十勝清水は町も大きく食堂もあると思ったのだが、時間が早いせいかどこもやっていなかった。しかたがないからセブンイレブンに入り、弁当を物色するも在庫がほとんどない。あたたかいものが食べたかったのだが、そうなると炭火焼き豚丼398円しかなく、これを朝食とした。豚丼は甘辛くて美味しかった。

 8時すぎに走りだすがバイクがアイドリングしなくなってしまった。信号待ちでエンジンがストールしてしまうのだ。アイドリングを調整するアイドル・スクリューを回してみるが、いつもはこれでエンジン回転が上下するのに反応がない。ネジが馬鹿になってしまったのだろうか。まさかフェリーでアイドル・スクリューにロープをかけられたのか。それとも北海道の寒さのせい? いや、気温が低いのとアイドル・スクリューがきかないことに関係はない。フェリーのロープもそんなことはないはずだ。しかしアイドリングしないのは困った。今はエンジンが暖まっているから再始動は容易だが、明日の朝、冷えきったエンジンがかかるだろうかと不安になった。

 信号でとまるとアイドル・スクリューを左右にまわしてみる。いつも敏感に反応してエンジン回転が上下するのだが、どちらに回しても変化がなく、やがて回転数が落ちてきてストールしそうになる。アクセルをふかし、エンジンが切れないようにして士幌高原ヌプカの里にむかうが、信号待ちのたびにアイドリングに注意し、エンジンがとまってしまうとキックで再始動することを繰り返し、まいったなと思いつつ走っていった。

 8時50分にヌプカについた。ここは高原にあり、風は強いのだが見晴らしがよいので気に入っているキャンプ場だ。しかし今日は濃霧ですばらしい風景を見ることはできなかった。

 キャンプ場には道内ナンバーのハーレー・サイドカーのご夫婦がいた。55くらいの方だ。昨夜は帯広の花火大会だったそうで、ここから花火見物をするためにやってきたそうだが、霧で何も見えなかったとのこと。ただその霧のおかげで寒くはなかったそうだ。

 おふたりは帰るところだった。ヌプカに平らな地面は少ないので、おふたりは私に自分たちの幕営地をあけてくださった。そこにテントを設営し、荷物を放り込んでヌプカのロッヂに宿泊の手続きにゆく。すると営業時間は10時から16時でまだ開店していない。時間外は入口においてあるボックスに宿泊申込書と料金を入れるようになっているから、後にすることにした。

 ハーレー氏は以前アフリカ・ツインに乗っていたそうだ。そのハーレー氏に、これから林道を走ってきます、と挨拶して9時30分に出発した。今年は初日からいちばんの目的地である、十勝岳周辺の長距離林道群を走ることにしていた。ここは昨年、台風の影響で崖くずれが発生して走行できなかったところなので、今年は優先的に走破することにしていたのである。

 高原にあるヌプカから下っていき、国道274号線で西にむかう。屈足にあるペンケニコロベツ林道が最初の目的地だ。北海道で林道に入るのは毎回緊張する。それは熊が怖いためだ。ヒグマに会うことはまずないと思うのだが、不安を消し去ることはできない。そこでどうしても恐怖感がなくならないのなら、林道に入らなければよいと考えるようにしている。北海道には楽しむためにやってきたのだ。やりたくなければしなければよい。したいことだけをすればよいのだ。

 

 頑丈なゲートで封鎖されたペンケニコロベツ林道

  

 ペンケニコロベツ林道の入口についた。昨年は工事車両がたくさんとまり、警備員のような人がいて、周辺の林道はすべて通行止めだと言われたが、雰囲気は変わっていない。工事の人や車こそいないが、通行止めの看板は去年と同じく出たままになっている。それでも行けるところまですすんでみようと思って林道に入ってゆくと、わずか2キロで頑丈なゲートがあらわれた。ゲートは林道の路面だけでなく、左右の林の中にまで伸びているから、脇をすりぬけることもできない。これではどうしようもないから、ペンケニコロベツ林道は諦めることにした。

 林道の入口にもどってあらためて通行止めの案内板を見てみると、昨年と同じく周辺の林道はすべて通行止めになっている。しかし日付が古いので、すぐ隣りを平行して走っているパンケニコロベツ林道にいってみることにした。

 

 ジャリの入っているパンケニコロベツ林道

  

 パンケニコロベツ林道の入口はすぐ近くだ。変電所の横をはいってゆくのでわかりやすい。林道に進入するとゲートがあるが開いている。これはよかったと思ってすすんでいくが、この先で通行止めになっていて、もどってきたらゲートが閉まっていたらどうしようと考え、また熊の不安もかかえてビクビクしながらの林道走行になった。

 パンケニコロベツ林道に入ったのは10時30分だった。ここは元々走りやすいダートだったのだが、昨年の台風で傷んだためかずっとジャリが入れてある。ジャリが敷いてあると走りづらい上に深ジャリになっているところや、水たまりでヌタヌタになっているところがあり、荒れていた。

 誰もいない林道をゆく。パンケニコロベツ林道は29キロもある。29キロひとりきりで深い山の中を走るのは長く感じられる。オド・メーターで入口からの距離を確認し、残りの長さを計算しながら走った。

 

 奥十勝峠からペンケニコロベツ林道方向を見る 通行止めの看板

 

 タヌキ一匹と会っただけで奥十勝峠についたのは11時25分で、パンケニコロベツ林道を走破するのにかかった時間は55分だった。奥十勝峠は道路がトの字になっている。右にまがるとペンケニコロベツ林道なのだが、そちらは通り抜けできませんと看板がでていた。

 久しぶりにやってきた奥十勝峠で一息いれる。ここはものすごく山深いところだ。3回か4回ここに来ているが、人に会ったのは一度だけで、いつも静まり返っている。物音も獣の気配もしないが、きっとまわりには生き物がたくさんいるのだろう。この先のシートカチ林道をぬければ舗装路の道道にでられるのだが、なんとか行けるようだ。ここまで来て入口に引き返すのは勘弁してもらいたいから、道路が通行可能であってほしかった。

 奥十勝峠からは急坂の下りである。ここはいつも荒れていて、坂の勾配が落ち着くと路面もおだやかになる。たぶん四輪がブレーキをかけながら下るから、道が削られるのだろう。この先で秘奥の滝線に入るつもりだったが、道路崩壊のため閉鎖されている。この秘奥の滝線がいちばん人の気配がなく、秘境のようなところなので、走るのを楽しみにしていた。しかし通行禁止では断念するほかなかった。

 

 シートカチ林道のロング・ストレート 飛ばせる

 

 シートカチ林道を道道718線の曙橋にむけてすすんでいく。ここはジャリがなくて走りやすいがたまにヌタヌタがある。そこでハンドルをとられるが、パンケニコロベツ林道を走ってダートに慣れていたのでスムーズに走行し、ロング・ストレートがあるとアクセルを一気に開けて飛ばした。

 秘奥の滝につづくと表示されている林道が2本あったが、支線と判断して入らなかった。支線は路面が悪いだろうと考えたためだが、その1本が秘奥の滝線だったようだ。

 17キロのシートカチ林道をハイ・スピードで走りきり、12時に曙橋にでた。道道718号線の舗装路である。パンケニコロベツ林道は通行止めではなく、走行に支障はなかったのだ。林道の出口で写真をとっていると、私が走ってきた方向からKSRのライダーがふたりやってきた。私はかなりの速度でシートカチ林道を走ってきたから、すぐに誰かがやってくるとは思っておらず、びっくりしてしまった。しかも彼らの乗っているのは小さなバイクなのだ。私のDRほどスピードがだせるとは思えないから、たぶん彼らは私の行かなかった秘奥の滝からやってきたのだろう。

 KSRのふたりは35くらいで夫婦のようだ。林道走行につきあってくれる女性はまずいないから、彼は幸運な男だと思う。そんな彼らに会釈をして走りだす。昼時になったので食事をとりたい。この付近で昼食をたべられるのは、この奥にある国民宿舎の東大雪荘だけなのでそこにむかうことにした。

 曙橋から東大雪荘まで9キロの道のりだ。以前は浮きジャリダートだったが、現在は舗装化がすすみ、ジャリ道は3キロをのこすだけとなっている。それが寂しいが、大多数の人にとっては歓迎すべきことなのだろう。その3キロだけになったダートも、近々アスファルトでおおわれてしまいそうだ。

 

 トムラウシ自然休養林野営場 右手を林道が走る

 

 東大雪荘の奥にはトムラウシ自然休養林野営場がある。どんなところなのか一度見たいと思っていたので行ってみることにした。東大雪荘の奥はもちろんダートである。登山道でもある狭い林道を1キロすすむと広場があり、そこがキャンプ場だった。トイレと水場があるだけのシンプルな野営場でだれもいない。ワイルドでよいところだが、ひとりでは熊が怖くて泊まれないと思う。

 

 鹿の唐揚げ丼

 

 東大雪荘のレストランで鹿の唐揚げ丼900円をえらんだ。客は私だけで料理は10分ほどで提供された。鹿肉の唐揚は甘辛い味つけで美味しい。臭みはまったくないから、鹿と言われなければわからない一品で、ここでしか味わえない野趣あふれる食事をたのしんだ。

 喉が渇いていたので水とお茶を何杯ものんだ。バイクがアイドリングしないから、林道でとまっていられず、ほとんど水分をとっていなかったのだ。林道でエンジンが停止すると、ヒグマが気になって落ち着かない気分になるから、休んだり水を飲んだりする気持ちになれないのである。

 売店でトムラウシ山のロゴの入ったTシャツを買った。セールで1360円と安かったので。じつは数年前に来たときも安売りをやっていたのだが、金が惜しくて買わずに帰って後悔し、昨年来たときには特売をしていなかったから悔しくて手をださなかった。それが今回は値引き販売をしていたのでやっと購入したわけなのだが、それでもレジに持っていくまでずいぶん迷ったから、やはり私はケチだと自覚した。

 東大雪荘をでようとすると雨が落ちてきた。サラサラと降るがすぐにあがってくれた。しっとりと濡れた路面をヌプントムラウシ温泉にむかう。シートカチ林道の出口だった曙橋にヌプントムラウシ林道の入口があり、このダートを17キロ走った先に温泉があるのだ。

 ヌプントムラウシ林道はおだやかなダートだったが、ここも昨年の台風の影響で荒れていた。しかも先程の雨でぬかっているから手ごわい。路面を見つめて慎重にすすんでゆくと、KSRのふたりがやってきた。この周辺を走るオフローダーの行くところは皆おなじなのだ。彼らと手を上げてすれちがったが、その後も数台の車がやってきた。こうなると熊の不安はなくなる。逆に見通しの悪いカーブでは、対向車がくる可能性があるから注意していった。

 登っていってピークを越え、その後は下ってゆく林道を走りきってヌプントムラウシ温泉に到着した。ここが林道の終点である。車は1台いるだけで、もっと人がいるものと思っていたから、忘れていた熊の不安を思い出す。自動車はプラドで中年の夫婦が乗っており、彼らは露天風呂に歩いているところだ。私も手ぬぐいをぶら下げて温泉にいった。

 

 沢をわたる橋

 

 昨年台風で流されてしまったと聞いた沢をわたる橋は、新しい丸太橋にかけかえられていた。丸太の橋はのるとしなる。そのワイルドな橋をわたって露天風呂にゆく。プラドのふたりは風呂にはいることなく車にもどってしまう。山の中にひとりで残されるのは嫌だと思っていると、プラドは走り去ってしまった。

 

 ヌプントムラウシ温泉 建物は脱衣所

 

 ここまで来たからには温泉につからないわけにはいかない。ヒグマが怖いから手早く服を脱いで湯にはいった。温泉はぬるい。源泉が入ってくるバルブが閉まっているのだろうかと思ったが、それを調整してゆっくりするつもりもないから、入浴中の写真をセルフ・タイマーでとって、早々に露天風呂からあがった。

 林道をもどっていくとオフロード・バイク3台とすれちがった。やはりここは人気のスポットだ。3台の最後尾をゆっくりと走っていたのはビック・オフのアフリカ・ツインで、以前は900忍者も温泉に来ていたから、大型のオンロード・バイクでも慎重に走ればいけると思う。

 

 泥だらけになったバイクと靴

 

 

 午前中の林道走行でバイクは埃だらけになっていたが、ぬかったヌプントムラウシ林道で泥だらけになってしまった。バイクだけでなくショート・ブーツも、Gパンの膝下もだ。こんなに汚れるならオフロード・ブーツが必要だと思う。以前は私もモトクロス・ブーツを持っていたのだが、ツーリングでもほとんどはかないので、古くなったのを機に捨ててしまっていた。膝下までのロング・ブーツを買う価値があると感じたが、それは今使っているブーツがダメになってからにするのは、ケチな私としては当然のことである。

 次は糠平湖の北にある岩間温泉に行くつもりだったが、時間が遅くなったので明日にすることにし、代わりに近くのあるオソウシ温泉から鹿追自然ランドにぬける林道を走ることにする。夕刻になると熊の活動がさかんになり、遭遇する可能性が高まるから、林道走行は日の高いうちに終えたいのである。栃木県の鬼怒川で地元の人に聞いたところでは、熊は夜明けと夕方に水を飲むために沢にでてくるとのこと。だから明け方と日暮れ時に注意が必要だと。これは渓流釣りをしていたときに教えてもらったことだ。月の輪熊とヒグマのちがいはあるが、熊の習性はあまり変わらないと思われる。

 舗装路の道道718号線を快適に下っていく。たまに雨粒が落ちてくるが、降りだすまでにはいたらなかった。岩松のオソウシ温泉の入口につくと、通行止めの看板がたっている。ここも昨年の台風のために道路が崩壊し、復旧工事中とのこと。しかし東大雪湖まで10キロもどれば、そちらから林道で入れると表示されているので、今来た道を引き返すことにした。

 道道をもどってゆくとダムの手前に急坂のダートがあらわれた。あまりに上り坂が険しいので、これではないだろうと思ったがここだった。急勾配を慎重にのぼってゆく。坂を登りきると林道は落ち着いた。しかし交通量はなく山は深い。こんなところに温泉宿はあるのかと思っていくと、路上に鹿の皮のようなものが落ちている。これって熊の食べのこし? それとも絨毯の切れっぱしか。真相はたしかめることなく通過した。

 

 オソウシ、ではなくオソイヌ温泉

 

 林道はおおむね走りやすい。鹿追自然ランドへの分岐となる丁字路の先、東大雪湖から5.7キロすすんだ地点にオソウシ温泉はあった。ものすごい山の中だ。建物には銃をもつハンターや熊や鹿の絵が描いてあるが、建物もペンキ絵もひどくチープで客はいない。宿の人らしい中年女性が玄関からこちらを見ていたが、私のことを客ではないと見定めて中に入っていった。

 オソウシ温泉につかるつもりはなかった。どんなところなのか見にきただけである。先にすすむこととし、Uターンするために温泉の敷地にバイクを乗り入れた。するとハンターなどが描かれた建物から犬が弾丸のように飛び出してきた。犬は大型の秋田犬で、歯をむきだしにして吠えまくっている。まっすぐにこっちに走ってくるからパニックになりそうになった。

 Uターンしようとすると速度を落とさなければならない。すると犬は左足に迫ってくる。さっきの宿の女は気づかないのか。犬をなんとかしてくれないかと思うが、女は出てくるようすはない。そうこうするうちにも敷地の境界がせまり、Uターンしていくが、犬が左足に肉迫してくるので、スタンディングして左足をシートの上にあげ、噛まれないようにする。そしてバイクが出口の方をむくと一気に加速した。犬は歯をむいて追ってくる。どこまでついてくるのかと思ったら、温泉の入口までで、そこからは一歩もでてこない。それが犬のテリトリー意識のようだ。

 助かった。しかし怖かった。もしも慌てて転んだりしたらどうなったのか。噛まれたら大怪我をしたはずだ。犬を放し飼いにするのは獣よけのつもりなのかもしれないが、客商売の温泉宿がすることではない。温泉失格である。ここはオソウシ温泉ではなく、オソイヌ温泉だ。

 

 林道の分岐点

 

 鹿追自然ランドへの分岐にもどる。この丁字路は北海道らしくて広々としたところだ。絵になっていると思い写真をとるが、こんなに豪快な林道の丁字路は他にないのではなかろうか。左の道をまっすぐゆくと東大雪湖、後方がオソウシ温泉、右手が鹿追自然ランドである。

 鹿追自然ランドまで11.6キロとでている。締まっていて走りやすいダートだが、分岐が多いオソウシサラウンナイ林道をゆく。急坂の上り下りがあり、分岐の看板が壊れていたりするが、本線ははっきりしているので迷うことはない。熊の心配もこのころにはしなくなっていた。ヒグマはいるのだろうが、バイクの走行音が聞こえれば出てこないと思う。それでも見通しの悪いカーブに入る前にはホーンを鳴らしてゆく。すると熊はいないがタヌキと山鳥はいるから、彼らは耳がよくないのだろう。タヌキは砂利道にいるが、キツネは舗装道路にいるなと気づいたりする。キツネは人間に餌をもらいたくて、交通量の多い道路に出てくるのだろう。

 15時52分にオソウシサラウンナイ林道を走りきり、鹿追自然ランドに到着した。東大雪湖からここまで初めてのルートだったし、今日のダート走行は終わったので、いささかホッとする。オソウシサラウンナイ林道は起伏はあるが走りやすいダートなので、またやってくることになると思う。

 つづいて以前にたずねたときには沢が増水していて、露天風呂が水没していた、国設然別峡野営場にある、鹿の湯にむかうことにした。道道1088号線を北上していくが、ここも以前は全線が浮きジャリダートだった。それが今はきれいに舗装されてしまっているから、オフローダーの私としては残念だ。そのアスファルトの道を快調に飛ばしてゆくと、然別峡の入口の然別林道が通行止めになっている。鹿の湯には行けないのか? と思ったが、この先から然別峡に入ることができたのだった。

 然別峡の先に伸びている然別峰越林道を走りたいと思っていたが、今年もダメなのだろうか。何年か前も走行しようとして通行止めだったのである。それは明日たしかめることにして露天風呂にむかう。野営場の入口にバイクをとめて、キャンプ・サイトの奥にある沢に歩いてゆく。キャンプ場にはテントが点在している。ここは買物は不便だがロケーションのよいところなので、いつか利用したいと思っていると、さっき会ったKSRのカップルもここに幕営していた。

 

 沢沿いにある鹿の湯

 

 沢にでると露天風呂が見えてきた。鹿の湯は沢沿いに作られた野趣あふれる岩風呂で、年配のご夫婦が入浴中だった。若者3人も近くにいるが入るのをためらっている。私はおふたりに声をかけていっしょにつからせてもらった。すると若い人たちもやってきたからにぎやかな湯浴みとなった。

 シャンプーと石けんを持参しているのでそれで体をながす。皆さん北海道の人だったが、私だけが余所者だ。それでも一期一会の皆さんとなごやかに温泉をたのしんだ。ここの湯は熱い。ぬるかったヌプントムラウシ温泉とは大違いで、長くつかっていられない。汗がとまらなくなるのは嫌なので、そうなる前に湯からあがった。

 然別峡をでてアスファルトの道道を快調に下ってゆく。翌日にそなえて満タンにしてキャンプ場に入るのが習慣なので、鹿追で給油をした。こうしておけば明日も朝から思いきり走ることができる。

 士幌の町に夕食の買い出しにむかう。しほろフード、というスーパーに惣菜や弁当があるのは昨年利用してわかっていた。18時前に店に入ると弁当や刺身が半額になっている。そこで刺身を350円、のり弁を150円で買ったが、これでは安くて申し訳ないほどだ。他に士幌産の冷麦、カップ麺、水をもとめ、近くのセブンイレブンでのどごし生の500ml缶を手に入れてヌプカの里のもどった。

 

 半額の刺身とのり弁

 

 ヌプカのロッヂは既に閉まっていた。そこで入口においてある宿泊者名簿に住所と氏名を記入し、料金350円をボックスに入れておく。キャンプ客はいないがコテージに宿泊者がいて子供のはしゃぐ声が伝わってくる。朝と同じく霧が深くて星も夜景も見えない。しかし、霧のおかげで暖かかった、というハーレー・サイドカー氏の言葉を思い出したりした。ラジオを聞いていると、札幌・石狩地方に竜巻注意報がでているという。その地域から遠く離れているから、影響はないと思う。今夜のヌプカはおだやかで風もまったくないから、テントのペグは1本も打たなかった。

                                         556.4キロ