2012年 北海道ツーリング 5日目 嫌な予感

 

 和琴でPキャンする人

 

 5時に起床した。今朝も夜明けからカラスがうるさい。昨夜は露天風呂にいったりしてあまり寝ていないが頭はスッキリしている。起きぬけに隣りにある国設の和琴キャンプ場を見にゆくことにした。国設は整地された土地につくられた野営場だ。湖に面していなくて景色がよくないから空いている。しかし料金が50円安く、1泊400円だ。どちらにするかは好みだろう。私は湖畔をえらぶが、あまり混んでいるなら国設にするかもしれない。国設は25年度は工事のため休みになるそうで、26年度から営業するそうだ。

 湖畔と国設のキャンプ場のあいだには広い駐車場があり、ここで車中泊をしている人やゲリラ・キャンプをしている者がいた。ワンボックスカーにカヌーの道具を満載している上の画像の男性。車に釣り用品を積み込んでいる男。バンの横にショーナンボーイと書かれたバケツがあり、どんな人がいるのかと思ったら老人がでてきたりした。そしてゲリラ・キャンプをしているカブの旅人。セダンの中で荷物に埋まって眠っている青年。皆さんとても個性豊かで生活感いっぱいだ。それを見るのが楽しい。

 

 冷麦の朝食

 

 昨日半分たべてのこっていた冷麦で朝食にする。安くて美味しくて手間がかからず大満足だ。6時25分に昨日いけなかった足寄峠にむけて出発する。和琴から走りだすと霧が深い。霧の林道では熊の警戒心が薄れて、出会う確立が高まると思えて気になった。

 国道243号線を弟子屈にむかうと、角の大きな堂々とした雄鹿が車にはねられて死んでいた。それをカラスがつついている。交通量の多い国道の脇でこの状況は放置できないと思うが、朝早いから行政は対応できないだろう。こんな時は、地域の動物の処理に強い人が呼ばれるのだろうか。

 

 足寄峠の林道入口 右に国道

 

 阿寒湖にむかうが霧は深いままだ。しかし足寄峠まで距離があるから、そのうち晴れてくれるかもしれないと思っていると、望んだとおりになった。標高があがると霧の上にでたようだがラッキーだった。太陽もでて絶好の林道ツーリング日和となる。和琴をでて1時間で阿寒湖につき、その10分後に足寄峠の林道入口に到着した。ここから西のカネラン峠方向に、3本の林道が平行して走っている。それを北から順に、行って、もどって、また行って、と走破するつもりで、まず39線沢林道に入った。

 

 上足寄林道 急坂深ジャリ

 

 林道は浮きジャリの走りづらいダートだった。入ってゆくとすぐに丁字路があり、右が上足寄林道で左が39線沢林道となっている。北にある上足寄林道16.5キロで西にむかい、39線沢林道でここにもどってくるつもりだった。しかし上足寄林道は急坂の深ジャリだ。ジャリの粒も大きく、見るからに走りづらそうだから、すぐに戦意喪失した。私は林道は好きなのだが、深ジャリは苦手なのだ。昨日も虹別林道の途中にあったボンベツ林道が深ジャリだったから走行するのをやめている。今回のツーリングではある深ジャリ林道を走破することがテーマになっているのだが、そこ以外では無理をしたくない気持ちだった。

 

 39線沢林道 嫌な予感

 

 上足寄林道をゆくのはやめることとし、39線沢林道で西へ走り、南にある35線沢林道でもどってくることにした。39線沢林道も浮きジャリの走りづらいダートだった。道はゆるやかに下っていって、時々森をぬける。車が通った跡はあまりなく、路面には草が生えていた。そして森が暗く、なんだか嫌な予感がするのだ。この土地が私にフレンドリーではなく、不吉なことが待っていそうな気がする。私は霊感はないのだが、たまにこんな感覚をおぼえることがあり、その時はそれを信じることにしている。39線沢林道は5キロすすんだところで引き返すことにした。

 考えてみると前回ここに来たときも走行を断念したのだ。あの時はまず南の35線沢林道に入ったが、フカフカの土砂が敷きつめてあって走りづらくてやめ、39線沢林道に転進したが同様だったため撤退した。なんだかここは験の悪いところだ。そういうところってある。そういうところには近づかないことが得策だと思う。

 

 双湖台からの風景 パンケトー

 

 屈斜路湖を拠点としてまわる予定だった林道探訪は終了した。和琴にもどって次の場所に移動することにしたが、双湖台があったので立ち寄った。展望台からはオンネトーとパンケトーが見える。すばらしい景色だが、何十年か前の大学生のときにもここの風景をながめていて、そのときは大したことがないなと感じた記憶がある。こんなに美しいのに。若かったからだろう。ありきたりの山や湖だと思ってしまったのだが、今は魅せられてしまうほどの山景だった。

 双湖台から下っていくとまた霧となった。標高の低いところは霧のままなのだ。霧の中は涼しい。長袖シャツの上にジャケットを着ているが肌寒いくらいだ。死んだ鹿はいなくなっていた。路上になんの痕跡もなく消えてしまっている。誰かが片づけたのだろうか。それとも拾っていったのか。長野のある山間の地域では、交通事故で死亡した鹿を回収して食べると聞いた。血がまわってしまって美味しくないそうだが。しかし、角や皮だけでも拾う価値はあると思う。

 9時10分に和琴に帰ってきた。キャンパーは移動したり、どこかに出かけたりしてほとんど残っていない。そんな中でサイドカー氏は読書をしていて、ハーレー氏ものんびりとすごしていた。撤収を開始するとハーレー氏が話しかけてきた。どこに行ってきたんですか、と。阿寒湖の先の足寄峠にある林道ですよ、と答える。ハーレー氏は長髪で顎鬚をたくわえ、彫りの深い顔立ちをしている。私よりも少し下の人だ。

 

 ハーレー氏のバイクとテント

 

 ハーレー氏とは話してみるとじつにウマがあった。彼は毎年この時期に神奈川からやってきて和琴に連泊しているそうだ。私が林道を走るために北海道にきたと言うと、氏はホンダXLRも所有しているそうで、それで和琴にきたこともあり、その時は岩間温泉にいったり、屈斜路湖畔林道を走ったりしたとのこと。

 ハーレー氏と話しているとツーリングとキャンプの話題がつきない。いっそ今夜もここに泊まってハーレー氏との会話を楽しもうかと思うが、旅の日程はかぎられている。残念だが出発の準備をつづけた。カメラのバッテリー残量をチェックするともうほとんどない。そこでバイクのバッテリーから電気をとりだしてインバーターにつなぎ、充電するシステムを数年ぶりに稼動させた。ハーレー氏が興味深そうに見ている前でスイッチを入れたが、通電しない。コードのどこかが断線しているようだ。あちこちの接点をいじるも起動しないので、充電システムを使うのは諦めることにした。

 ハーレー氏は、キャンプ場のレストハウスにたのむと1回100円で充電してくれますよ、と教えてくれる。しかし充電には2時間はかかるだろうから、そうなるとそれこそハーレー氏と喋ってすごすことになるから、やめておいた。

 ハーレー氏に西興部のキャンプ場にゆくつもりだと話す。キャンプ仲間の「おとう」に教えてもらったのだが、この野営場には居酒屋があるのだ。こんなに私にふさわしいキャンプ場はないから、どんなところなのか、いかなる飲み屋なのか、たしかめたいと思っていた。そのキャンプ場を知っているかハーレー氏に聞いてみると、知らないとのこと。しかし彼はギミック社の「北海道キャンピングガイド」という本を持ってきてくれて、調べてくれた。その本によると西興部のキャンプ場の近くにはスーパーとコンビニがあるそうだが、居酒屋があるのかどうかまではわからないとのこと。しかし無料なのはまちがいなかった。

 ハーレー氏が持っていたギミック社の「北海道キャンピングガイド」は見たことがなかった。私が愛用しているのは亜璃西社の「北海道キャンプガイド」だ。この本は都内の大型書店でみつけることができる。しかしギミック社のものはない。その内容がキャンパーのツボをおさえていて、利用者にファミリーが多いのか、ソロが主体かといったデータや、夜の宴会のうるささまで表示してあり、是非とも手に入れたい一冊だった。ハーレー氏によるとネットで手配できるとのことだ。

 GLサイドカー氏に話しかけようかと思ったがやめておくことにした。ハーレー氏が、旭山動物園から脱走したフラミンゴが紋別のコムケ湖にいるから見物していけば、と教えてくれる。新聞を買ってきて読んでいたらでていたそうだが、旅先で新聞を購入して読むというのも、貧乏性の私にはできないことである。

 ハーレー氏と別れるのは残念だが出発することにする。よほどこのHPやブログのことを話そうかと思ったが、口にすることはできず、またどこかで会えるかもしれませんね、とだけ言って走りだす。8月の末に和琴半島にゆけば、また彼に再会することができるだろうから。

 美幌峠は深い霧だった。風景はまったく見えないから、昨日のうちに来ておいてよかった。霧がでていたのは峠の頂上だけで、山を下ってゆくと晴れ、太陽があらわれる。気温は26℃と快適だった。

 北見にはいると暑くなった。日差しが強くなり、ジリジリと焼かれるような酷暑にもどってしまう。Tシャツの上に長袖シャツを着て、ジャケットもつけていたが、長袖シャツを脱いだ。

 北見では2001年にお世話になったバイク屋をみつけたいと思っていた。2001年のレポートにも書いたのだが、ツーリングの終盤にタイヤが磨耗してしまい、交換が必要だと思ったのだ。それで北見のバイク屋に飛び込んだのだが、そこのご主人と奥様はとても親切に対応してくださり、タイヤの在庫がないので手配してくださることになったのだが、いざタイヤを見てもらうと、まだ走れることがわかったのである。つまりは私の早とちりだったのだ。これなら東京まで十分に帰れる、とご主人に言われて、ただただ恐縮したのだった。

 そのバイク屋をさがすがわからない。北見に入っていって最初のバイク・ショップだったのだが、それらしい店はなかった。バイク店は2件あったのだがレイアウトがちがう。建て替えたのだろうかと思ったが、入ってたしかめることまではしなかった。

 これから進むルート上にリスト・アップされたレストランはないか見てみると、遠軽の手前の安国というところに「のぶりん」というラーメン屋がチョイスされていた。こんな田舎にチェックした店があるとは驚いたが、それを知ると是非ここに行きたくなった。なんだか縁を感じるから。

 国道333号線で安国にむかう。この道は昨年も遠軽から能取湖へと逆方向に走ったルートだ。遠軽は大きな町だったが、その手前の安国に集落はあっただろうかと思いながらゆくと、意外にも人家がたくさんある。失礼だが安国にこんなに人が住んでいるとは考えていなかった。しかし店はあまりない。ここに評判のラーメン屋があるのだろうかと思いながら駅前にさしかかると、そこだけ車が停まっていてにぎわっているところがある。それがのぶりんだった。

 

  のぶりんの焦がし醤油ラーメンとミニ豚丼

 

 のぶりんには客がたくさん入っていた。お店の女性に何がいちばん人気があるのか聞くと、焦がし醤油ラーメン700円とのこと。それとミニ豚丼300円を注文した。焦がし醤油ラーメンは焦がし醤油の独特の風味のあるもの。豚丼は甘口の仕上がり。どちらもボリュームたっぷりだから、ミニ豚丼はいらないほどだ。のぶりんは発展途上だが研究熱心でやる気のある店だった。こういうお店は応援したくなるよね。

 遠軽から北上していくと、フラッグあります、の看板をだしているホクレンがあり、フラッグの色が青であることを確認して給油をした。ホクレンのフラッグは地域によってカラーが変わるのである。25.6K/L。単価は151円。これでグリーンとブルーのフラッグを手に入れた。

 気温が上昇して暑さが耐えがたくなってきた。Tシャツの上にジャケットを着ていたが、上湧別チューリップ公園の前で脱ぐことにする。その代わりに長袖シャツをつけた。季節はずれのチューリップ公園は閑散としていて、はじめは閉鎖された公園なのかと思った。看板がでていてそれと知ったが、この暑気の下では公園に来る人などいないのだ。

 長袖シャツで走ると風がぬけて涼しい。首が無防備になるから虫の衝突が心配だが、そうも言っていられない暑さだった。オホーツクにでてフラミンゴのいるコムケ湖を通過する。フラミンゴに時間をつかうような私ではない。貧乏性ライダーは先をいそぐのだ。しかし暑い。オホーツクにでれば気温も下がるだろうと思ったのだが、そうはならなかった。

 オホーツク沿いにでるとライダーが急増した。今までほとんど会わなかったのに、次から次へとやってくるから、ピースサインをだすのが忙しいほどだ。ライダーのいるところはかたよっている。内陸にもよいところはたくさんあるんだが。

 

  ノコギリザメの角?

 

 紋別の道の駅にいってカニの巨大なハサミのオブジェを見物する。紋別には何度も来ているが、これを見たことがなかった。手前にあったカリヨン広場のノコギリザメの角? といっしょにカメラにおさめる。ここもものすごく暑く、日差しの下にいるのが辛いほどだった。

 ここで札幌ナンバーのタンデム・ライダーに声をかけられた。30くらいの男だ。
「覆面がいるから、注意したほうがいいよ。捕まると気分わるいから」
 そんなことは先刻ご承知だ。それより、初対面で挨拶もなく、いきなりのタメ口で上から目線のことばは何なのだろう。こんな無礼な人間には会ったことがないぜ。つけくわえておくと、親切心で言っているニュアンスはなかった。

 紋別にビジネス・ホテルがあれば泊まって飲み歩くのもいいなと思っていた。西興部のキャンプ場にある居酒屋も気になるが、とりあえず町の中を探索してみると、ホテルは2・3件しかなく、しかも入口には慶応大学陸上部様、駒澤大学駅伝部様などとたくさんの大学の名前の書かれた看板があり、とても宿泊できそうにない。しかし今年の北海道は異常に暑いから、合宿にきた学生も困っていることだろう。

 思いのほか飲み屋街が大きく、町中にカニを茹でる匂いのする紋別をでていく。すると耐えがたかった暑気は少しずつゆるんでいった。興部から国道239号線で内陸の西興部にむかう。西興部の町の中心にある西興部森林公園にキャンプ場はあるのだ。

 公園には16時20分に到着した。芝生の広場と遊園地があるが、誰もキャンプをしていないから、どこがサイトなのかわからない。公園事務所でたずねてみると、芝生の張ってあるところならどこに幕営してもよいとのこと。屋外ステージの裏にノートがあるので、そこに住所と氏名を書けば手続きは終わりだそうだ。

 

 西興部森林公園キャンプ場 奥のとんがり屋根が居酒屋はるちゃん

 

 気温は29℃だった。これまで暑くてたまらなかったから快適に感じられる。キャンプ場のすぐ隣りにレストランがある。森のレストランと書いてあるが、これが居酒屋のようだ。駐車場に千葉ナンバーのワンボックスカーの方がいた。リタイヤした感じの65くらいのご夫婦だ。今夜はここで車中泊されるとのこと。とても気さくな方たちで、一晩だけだけどよろしくね、とおっしゃり、気持ちよく話をさせていただいた。

 居酒屋の前にテントをたてた。遊園地の係員さんがキャンプ場の管理もしていて、風呂のある町営のホテルの場所やそこにあるレストランのことを教えてくれる。居酒屋のことをたずねると、わざわざお店にいって今夜は18時から営業と聞いてきてくれた。

 

 荷物を満載した軽バン・キャンパー

 

 テントの横にベンチがあり、そこでメモをつけていると千葉ナンバーの軽バンがやってきた。乗っているのは70過ぎのご夫婦だ。Pキャンなのかと思ったらテントを張りだした。軽バンには荷物がたくさん詰め込まれている。何をこんなに積んでいるのだろうかと思って見ていると、小型のエンジンがある。あれはなんなのだろうか。

 町営ホテルに入浴にゆく。料金は400円だ。公園の管理人さんの言っていたとおりレストランもあり、地元の食材をつかったメニューがならんでいた。風呂では軽バン氏といっしょになった。車の中にあったエンジンはモーター・パラグライダーのものだそうだ。これで飛ぶために北海道に来たというからすごい。地元の千葉でも飛行しているそうだが、いろいろとうるさくて自由にやれないとのこと。まず露天風呂のある施設の上は飛ぶなと苦情がくるそうだ。何十メートルも上空だから、人の裸は見えないと説明しても聞いてくれないとのこと。それはそうだろう。また海岸ではコアジサシの繁殖を阻害するからやめろと抗議を受けたそうだ。これで鳥の繁殖期は飛行できなくなってしまったそうで、自由を謳歌しているように見えるパラグライダーもそうではないことを知った。しかし穴場の無料キャンプ場には旅好きのユニークな人が集まる。私もそのひとりだが。それにしても軽バン氏、失礼ながらお年なのにとてもパワフルに旅をしている。私もこんな老人になりたいものだ。

 

 はるちゃんにて ツボダイとラーメンサラダ

 

 風呂をでて西興部の町をあるく。コープと酒屋兼総菜屋、それに古い昔ながらの食堂とセイコマもあった。これだけ便利でキャンプ場は無料なのだから言うことはない。野営場にもどって目的の居酒屋ーーはるちゃん、という名前だったーーにゆく。まず生ビールをたのみメニューを見た。刺身をえらびたいが単品で500円〜600円とお高い。格安オヤジ酒場で飲んでいる私の相場は350円〜400円なのだ。それでも500円の〆サバを注文すると品切れで、しからばサラダがよかろうとラーメンサラダをチョイスした。

 窓の外に私のテントがたっている。それを見ながらビールを飲むのは不思議な感じだった。ラーメンサラダがきた。これはサラダではなく、冷し中華ではないのか。冷し中華の具をサラダにしたものだ。

 焼きものにツボダイ600円がある。ツボダイは高級魚だからこれはお得だ。さっそく追加する。ツボダイは脂がのっていて美味しいが大きい。それに冷し中華だから、ビールをお替りしたら満腹になってしまった。これで切り上げることにする。はるちゃんには客は途切れずに入ってきていた。この町に飲食店は古い昔ながらの食堂とホテルのレストラン、それにここしかないから、居酒屋スタイルのはるちゃんは貴重な存在なのだろう。

 店をでてすぐ前のあるテントにもどってゆく。なんだか妙な感じだ。テントに入って焼酎を飲んでいるといつの間にか眠っていた。トイレに行きたくなって眼を覚ますと、はるちゃんはまだ営業中で客が入れ替わっている。高級車で来ている、やけに態度の横柄な若夫婦がいたりする。いくら客だと言っても、小銭をつかうくらいでそんなにえばるなよと思う。そんな風景を見てまたテントにもぐりこんだ。

                                         367.4キロ