2016年トランポでゆく北海道ツーリング8日目

 

 道の駅 しらぬか恋問

 

 6時におきた。台風の影響でひどい雨と強い風がふいている。北海道限定の利尻昆布を使用したどん兵衛で朝食とした。海を見にゆくと雨と霧で見通しが悪く、泥色の白波がたっている。海の写真をとっていると突風がふき、傘がお猪口になったと思ったら、こわれてしまった。

 バイクの横にたてておいたラダーをフロアにねかせるが、カッパを着ないと作業できない。雨具のおかげで濡れずにすんだが、車のリヤ・ゲートの下は深い水たまりになっていて、スニーカーの中がびしょ濡れになってしまった。

 カッパをバイクにかけて干し7時に出発した。雨の日のために考えていたプランは、中札内にある六花亭が運営する美術館、小泉淳作美術館にゆくことで、これが今日のご馳走だ。スマホ・ナビによると到着時間は10時前なのでちょうどよい。ついでにチェックした帯広美術館の特別展はゴジラ展とのことで、怪獣は好きだがこれはパスとした。

 

 荒れる海

 

 昼食は美術館近くのじんぎすかん白樺と決めて国道38号線をはしる。車の流れは70キロなので前の自動車について走行していると、後方から追い上げてきたトラックが追い越しをかけてきた。センター・ラインは白線だが、強い雨で視界が悪いから、追い抜いてくる車はないだろうと思っていたからおどろいた。トラックは一気に3台の先行車をぬいてゆく。雨でもおかまいなしだ。70キロでは遅くて我慢がならないという気持ちを周囲に発散させていた。

 川があると注視してゆくが、増水していてもあふれてはいない。バイクは見ないが二輪でこの豪雨の中を走行するのは辛いだろう。こんなときは惨めな気分にもなってくるから、ライダーには申し訳ないが、トランポで来てよかったと思った。

 十勝浦幌のセイコマに立ち寄った。ゴミを捨てさせてもらい、ブレンド・コーヒーはないので缶コーヒーでブレイクする。いっしょにカップめんも購入した。昨夜から大雨なので、旅の途中で捨ててもよいと思ってもってきた、しょぼい長袖ポロシャツを着ていた。その姿でセイコマに入ったが、北海道は服装にかまわない人がたくさんいるので、浮かなかった。それは地方だけでなく、札幌や旭川などの都市部でも同様だ。

 明日の朝、小樽発のフェリーにのる予定だ。台風は運行に影響しないと思うが、念のためにフェリー会社に電話をかけて確認した。すると今のところ出港・航行に支障はなく、天候もまず大丈夫との答えがかえってきた。万一遅れや欠航の場合は携帯に連絡がくるそうだ。その電話があるとすれば今日の昼すぎとのこと。これでわずかに残っていた心配の種はなくなった。

 気軽に船会社に電話をかけられるのもトランポだからだ。運転席にすわってコーヒーを飲みながら、電話番号をしらべてゆったりとダイヤルできた。バイクでは心の余裕がなくなってスマホをとりだすこともできなかっただろう。オートバイで旅をしているといろいろと考えて腹が痛くなることがあるが、トランポでは皆無だった。車は気持ちにゆとりを持ってすごせるからだろう。バイクにはバイクのよさがあるが、北海道ツーリングはもはやトランポの旅しか考えられないと思った。

 

 十勝の広大な畑

 

 十勝に入ると広大な畑がひろがりだした。その写真がとりたくて更別で脇道にそれてよい場所をさがす。北海道らしい雄大な風景が見られたが、作物が水びたしになっているところがあり心配だった。

 豊頃は土砂降りだった。その豊頃で国道38号線から道道210号線に入る。この道は継ぎ目とデコボコがあり、バイクがゆれてタイダウン・ベルトがきしむので、60キロしかだせず、後ろに車が追いついてきてしまう。後続の自動車には悪いと思ったが、継ぎ目があるとアクセルから足をはなし、ショックを少なくして走行した。

 

 小泉淳作美術館

 

 中札内の六花の森に到着した。ここにある小泉淳作美術館に来たのは2011年につづいて2回目で、前回は作家は存命だったが、今は亡くなっている。美術館は森の中にあるので傘をさしてあるいてゆく。入場料は500円だがJAFの割引がきいて400円になった。入場券が小泉の作品のタケノコの絵葉書なのが洒落ている。ここにはもうひとりの画家の美術館もあり、同時に見ると割引になるのだが、小泉淳作しか鑑賞するつもりはなかった。

 小泉淳作は53才まで無名だった日本画家だ。デザインの仕事で生計をたて、絵をかきたいという芸術的な欲求でかきつづけた人である。注目されるようになってからもどこのグループにも属さずに創作活動をつづけたから、孤高の画家ともよばれる。53才まで仕事をしながら認められない自分の絵に打ち込んできた人は、通俗的な交流など意味がないと思うのだろう。

 

 入場券は画家の作品の絵葉書

 

 作風はデザインの仕事をしていたからか、デフォルメと省略の手法と、逆に細密精緻に描きこむものの併用だ。たくわえた自分の力のあらんかぎりを製作中の作品にそそぎこみ、自らが納得するまで加筆修正するのをやめないので、精神性がたかく、真摯でひたむきな絵が完成する。

 絵を描きこんでゆくのは作品を深めることなのだろう。面積のかぎられたキャンバスの上に重ねてゆくあらんかきぎりの力は、作品に品格と見るものをはなさない吸引力をあたえるのだと思う。

 

 杖のような棒の先に筆をつけて描く画家

 

 展示してある絵を一度みたところで、NHKの日曜美術館の録画を見ることにした。京都の建仁寺の法堂の天井絵を制作する過程を追ったドキュメントである。天井画は巨大なものなので、製作場所をさがすのがたいへんだ。六花亭の協力で中札内の廃校の体育館がつかえるようになり、そこでの製作風景が撮られていた。

 ドキュメントを見た後でもう一度作品を鑑賞した。ご馳走がおいしければそこで時間をかけることが旅の充実につながる。心ゆくまで小泉の世界にひたった。ここでは小泉淳作のエッセイを売っていた。この本がほしいが3500円もする。帰ってから古本をさがしてみようと考えたが、後日アマゾンで良品を1185円で手に入れることができた。

 

 建仁寺の天井絵をかく作者

    ご興味のある方はブログの記事もどうぞ   追悼 小泉淳作 2012年     小泉淳作美術館訪問記 2016年   

 

 これだけの文化施設を運営する六花亭はたいしたものだと思う。林の中に六花亭の製品の売店があったのでみやげを購入することにする。雨なので六花が描かれた紙袋にていねいにビニール袋をかけてくれた。

 じんぎすかん白樺にゆくことにする。ここも今日のご馳走だ。白樺のメニューはジンギスカンとラム・ジンギスカンの2種類があり、各150グラムだから、両方とご飯を大盛りにしようと考えて車をだした。

  国道236号線から道道55号線にはいる。目印は紫竹ガーデンの看板だ。道道をすすんでゆくが白樺まであと3キロの地点で通行止めになってしまった。川の橋が洪水でながされてしまったようだ。ここは大樹町というところで、先日の台風で被害にあったのが芽室町と大樹町と伝えられていたような気がする。大樹町はどこにあるのだろうかと思ったが、ここだったのだ。

 通行止めを迂回するために帯広方向にいってみるも道がない。国道236号線にもどって南にゆくと、中札内からむかう広域農道があったが、ここも通行止めで橋をわたることができなかった。悩んだがこれ以上大きく迂回すれば時間のロスになるので、じんぎすかん白樺はあきらめることにした。

 白樺をたのしみにしていたし、メニューまで決めていたので落胆した。どこで昼食をとろうかと考える。この近くで知っているのは帯広の焼肉店の平和園だが、空腹だからもっと近くでたべたい。この先は大正だが、そこにはこれまでにも登場している、HPを相互リンクしていただいているFukishimanさんが利用されていた店があったのを思い出す。セパという豚丼のレストランだったはずだ。大正につくとジンギスカン専門店のラム亭という店があった。白樺にゆきたかったから、こちらのほうが気分にあう。それにここはやはりHPを相互リンクしていただいているじゃばさんが食事されていたように記憶する。そこでラム亭に入ることにすると、ここは販売だけの店で、食堂は閉めてしまっていた。これでセパにゆくことに決した。

 セパは国道沿いにある。山小屋風のつくりで大きな看板もだしているから目立つ。ライディング・ジャケットを着て店に入ると、ご主人が「カニの人?」と聞く。ちがうと答えると、バイクに乗る格好だからそう思ってしまった、失礼、と言うので、カニの泊まった人に聞いてきました、と答えた。Fukishimanさんのことだ。

 ご主人におすすめを聞くと豚丼かカツ丼とのこと。豚肉にこだわっているそうで、豚丼は900円、カツ丼は800円だ。カニの家の宿泊者は特別な低価格メニューがあり、肉質をおとして200円安く豚丼を提供しているとのこと。店の外の看板にもでているから、おすすめの炭焼豚丼900円をおねがいした。

 

 セパの炭焼豚丼

 

 セパは店内も木を生かしたウッディな作りになっていた。私はテーブル席にすわったが、ご主人と奥様、常連客はカウンターにいる。常連客は昼から酒をのんでいて出来上がっていた。雨で仕事が休みだから飲みにきているようだが、同じことを何度もご主人に話している。酔客の相手をするのもたいへんだなと思うが、ご主人はとても人懐こい感じの人なので、苦にしないのかもしれない。

 10分とかからずに炭焼豚丼はやってきた。早い。味噌汁ではなくあたたかい蕎麦がついているのが嬉しい。蕎麦と薬味のネギの風味がよくてまずこれに食いついてしまった。豚肉は炭であぶってあるから香ばしい。丼には厚切りの肉がぎっしりとつまっている。タレは甘めで肉によくあう。おいしくて一気にたべてしまった。

 フレンドリーなご主人に料金をはらってセパをでた。駐車場でこれからむかう札幌の目的地を確認する。札幌では飲み歩きたいと思っていた。酒をのんだら泊まるほかないが、札幌には旭川のような道の駅はない。ホテルに宿泊するほかないが、私は別の手を考えていた。24時間営業のパーキングにすれば、ビジホよりも安くすむのではないかと思いついたのだ。トランポできているのだから、車中泊をしなければもったいないではないか。

 パーキングは何ヶ所かの候補をえらんであった。ポイントはトイレがあることである。飲んでくると、どうしても夜中にトイレにゆきたくなるから、これは絶対条件なのだ。そこでトイレのあるすすき野のパーキングに電話をして聞いてみた。「トイレはありますよね?」「はい」ここはタワー・パーキングなのだが、「トイレは各階にありますか?」「いえ、1階のホールにだけあります」とのこと。

 これだと1階に車をとめなければならない。夜中に3階や4階から1階のトイレまでゆくのは酔っているから無理だ。駐車場とトイレをじっさいに見てみないと状況はわからないから、とにかくやくことにした。思うようなところでなければ札幌での飲み歩きは諦めて、いつものように道の駅にでも移動すればよいのだ。

 スマホ・ナビにこのパーキングの名前を打ち込むと、ただちに対象を特定し、おすすめルートを提示してきた。道央道をつかうコースだが、狩勝峠と日勝峠が通行止めだから、ここしか考えられない。カーナビにもパーキングをさがさせると、こちらはみつけることができなかった。狩勝峠と日勝峠が通行できないから、唯一の迂回路である道央道は無料で走行できることは知っていた。

 スマホ・ナビの指示にしたがってセパの駐車場を出発する。雨の中、パーキングに電話をしたり、スマホで検索したりするのはトランポでなければたできないことだった。国道236号線を帯広方向にむかうとスマホ・ナビは帯広広尾自動車道の帯広西ICに入れと言う。しかし高速の入口には千歳方向にはいけないと表示がでていて、まさか通行止めか?、と思ってここを通過する。ナビは国道236から国道38号線に左折し、芽室帯広ICから高速にはいれと提示してきた。いつの間にか雨はあがっていた。

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

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