爆心 青来有一 文藝春秋 2006年 1762円+税

 痛切なアリアのような短編集。

 釘、石、虫、蜜、貝、鳥、とそれぞれ漢字一文字のタイトルをつけられた短編がならぶ。

 重大な犯罪を犯した息子を持つ父親や、母親が死にそうになっている男、被爆者の女性の話など、読むと心がチリチリとしてくるような内容の短編がおさめられている。

 文体はそれぞれの主人公が話しことばで独白していくスタイルをとっていて、辛い内容の物語を、静かに語り上げていくのである。

 作品の背景にはいつもの作者の小説と同じように、舞台となる長崎と原爆、そしてキリスト教が配されている。作品に織り込まれているエピソードは悲惨で、胸を打たれつつページを繰ることとなるのだ。

 作品の仕上がりは秀逸で、並々ならぬ力量である。全編に神経が行き届き、間の取り方、転調、凝縮度、そして帰結にいたるまでどれもすばらしい。読むのは辛い悲痛な世界が書かれているが、お薦めである。

 芸術性の高い、正統派の短編集である。

 

 

 

 

 

 

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