CBX1000の思い出

 

 街角のCBX1000 このカラーは後期のものだろう

 

 自転車で一日(24H)にどれだけ走ることができるのか、を競いあっていたころ、富士五湖を往復すれば300キロを走破することができ、新記録を樹立できると思いついて、実行することにした。
 
 今では考えられないくらいに若く、体力があった高校生のころの話だ。深夜零時に出発し、真夜中の大垂水峠をこえて、夜明けに大月にいたった。そのまだ明けやらぬ早朝に、起伏のおおいR20のピークで休んでいた時のことである。大気はまだ、夜のいろを残していて、うす青く、朝霧の白いもやもでていた。
  
 前方、富士五湖方向の道は、50メートルほどすすんだところで急激にくだっていて、道路は視界から消えていた。その視野の外だった下方から、ふわりと大型バイクが浮かび上がってきた。朝日のうすい、ぼんやりとした白色のなかへ、幻のように。

 その特異なフォルムのバイクは一目で何なのかわかった。デビューしたばかりのホンダのフラッグ・シップ、CBX1000である。雑誌でしか見たことはなかったのだが、いままで見たこともない6気筒の巨大なエンジン、そのうえの幅広のタンク、6本のエキパイ。どれもが見慣れたナナハンよりも大きくて衝撃的だった。

 当時は外車や逆輸入車は希少で、しかもデビューしたての超ハイテクマシーンを目撃することができて幸運だと、高校生の私は大興奮した。排気音は記憶にないくらい低く、ただあざやかな衝撃の波動をのこして、去った気がする。そしてCBXのライダーは思ったよりも若く、25くらいの青年だった。

 当時外車のハーレーやドカ、モトグッチなどに乗っている人はおじさんばかりで、25くらいの人が高価なバイクに乗っているのは見かけなかった。あの若さで逆輸入車を手にいれるなんてすごいと単純に感心しつつ、CBXとの邂逅の余韻にひたっていると、またCBXがあらわれた。今度のは色違いのCBXで、乗っていたのはやはり25くらいの男性だった。
 
 その後はつぎつぎとCBXに会った。前方からも後ろからも。赤、青、銀の三色の新車がつぎからつぎへとやってきた。子供だった私はどこにこんなに金持ちがいるのだろうかと本気でいぶかしんだ。富士五湖周遊路は新車のならしに、また休日のツーリングに最適なコースだったろう。首都圏に納車されたばかりのCBXが集まったものと思われる。日本が豊かになりだしたころのことだ。走り去るCBXを見送りながら、私も大人になったら、CBXが買えるような男になりたいと考えたものだった。

 なお計画は成功し、19時間で300キロを走行した。


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