どこだって野宿ライダー オーストラリア編 寺崎勉 山海堂 1993年 1456円+税

 1984年に初版のでた、悪路をえらんで走った豪州一周の記録である。

 林道ツーリング、キャンプ・ツーリングの世界では知らぬ人のいない作者の作品である。バイクで豪州を一周するだけなら珍しいことではない。荒野や砂漠もあるのだろうが、危険はないはずだ。本書は主要路は通らず、さらに舗装路ではなくて、わざわざ未舗装のルートをえらんで走った、キャンプ・ツーリングの、冒険の記録である。

 主要路をはずれて、未舗装路を行くルートは、町やGSが少ないだけでなく、砂漠の中や1300キロも荒野がつづく平原、雨が降るとヌタヌタになってしまう泥道や、冠水してしまう土地をすすむものだ。ヌタヌタでは転倒につぐ転倒となり、冠水路ではバイクが水没してしまったりする。その章のタイトルは、パンク地獄、洪水地獄、となっている。

 何度もパンクしてタイヤが使用不能になると、地元の人に助けてもらったりして旅を続けていく。豪州の人は優しい。作者が困っていると、アー・ユー・プロブレム?、と聞いて手を差し伸べてくれるが、きびしい自然の中の環境では互いに助け合うのが当り前なのだろう。

 水の調達には苦労していて、泥水をすすり、蚊や蝿にたかられながらキャンプをしていく。道路わきには牛やカンガルーが車にはねられて死んでいる。そして内陸部には原住民のアボリジニの集落があり、差別されている彼らの姿も書かれている。それは昔のアイヌの人たちのように感じられたが、本書が書かれたのは1984年以前だから、今は差別的な状況も変わっているのかもしれない。

 内陸の未舗装路をすすむ旅をした作者は豪州の真実を見たと書いている。豪州のはらわたを見た、と。たしかに読んだ者も豪州のはらわたを知ることのできる冒険の書である。

 道端野宿、粗食、ビール、安酒、タバコにカメラ。雲とスコールと冠水路にヌタヌタ道。深い轍。走って、食って、寝る毎日。

 文章を読んでいると、シャイで繊細であり、無口な作者の人柄が想像された。

  

 

 

 

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