百と八つの流れ星 上・下 丸山健二 岩波書店 2009年 上下とも1800円+税

 再生と破滅の短編集である。

 見開き3枚、6ページでひとつの短編が上下2巻で108編ならぶ作品集だ。作者はこのような形式が好みのようで、過去に『千日の瑠璃』や『貝の帆』など、同じようなスタイルの作品を書いている。それらと本作が異なるのは、前者が短編をつむいで大きな長編小説になっているのに対して、本作はひとつひとつが関連のない、独立した物語となっている点である。全体でひとつのことを歌い上げるのではなく、バラバラのストーリーがならぶので、力強さはないが、作者の主張は十分に伝わってくる作品だ。

 短編のテーマは生老病死や人生の厳しさ、辛さ、それに反戦などである。全体に共通しているのは、思うにまかせない人生を歩んでいる者が、世を拗ねた視線で社会を見ているのだが、あることをきっかけとして生きなおしていくという再生の物語と、自分らしく尊厳をもって自死する、破滅の美学である。したがってこの作品は再生と破滅の作品集と呼べると思う。

 身も蓋もないような人生や救いのない内容も語られるが、社会や人間を告発し、読者を挑発し、人生を肯定し、自殺も認めながらも、人生を首肯している。そして物語のなかにはすばらしい表現や比喩が散りばめられている。それは作者の透徹した視点がとらえた、この世の森羅万象の本質で、ほかの作家にはない、作者だけのかがやける才能だろう。

 本作は書き下ろし作品とのこと。すばらしいペースで新作を発表し続ける作者は、そのどの作品もが驚くほど水準が高く、読者の期待を裏切ることがない。本書もその例に漏れないが、本作はほかの作品を執筆中にひらめいたアイデアを書きとめておき、それをまとめて磨き上げたものなのだろうかと想像したりした。

 死がテーマの作品が多いことが作者の年齢を感じさせる。これからも生と死について書かれた、作者にしかモノにできない至高の作品を、読み続けたい。

 

 

 

 

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